2020年末に慰安婦に関する論文を発表し、世界的な議論を巻き起こしたハーバード大学ロースクールのJ・マーク・ラムザイヤー教授。彼の説が韓国のみならずアメリカでも激しい批判に晒される中、教授が教鞭を執るハーバード大学そのものが、当時ドナルド・トランプ大統領の強い標的となっていました。日本では「学問の自由」を揺るがす動きとして報じられましたが、ラムザイヤー教授は、その背景にハーバード大学が長年抱えてきた「問題」があると指摘しています。この記事では、ラムザイヤー教授の見解を基に、この複雑な状況の深層に迫ります。
アメリカ政治の分断と大学への影響
2024年のアメリカ大統領選挙では、左派と右派の根深い分断、そしてエリート層と非エリート層の対立が主要な争点の一つとして浮上しました。ドナルド・トランプ氏は、オバマ政権下の8年間におけるエリート主導の政治に対する一般市民の鬱積した不満を巧みに捉え、その支持を集めました。大統領就任後、彼は左派色が強いと見なされる大学への連邦政府からの資金援助を打ち切る政策を推進しましたが、その中でエリート層の象徴的存在であるハーバード大学は、特に格好の標的となりました。
ハーバード大学内の多様な政治的傾向
しかし、ハーバード大学が他の名門大学や一般の大学に比べて、特に極端に左寄りの傾向があるわけではありません。実際には、リベラルな政治的傾向の強さは学部によって大きく異なります。ラムザイヤー教授が教えるロースクールやビジネススクールでは、全体的には民主党支持者が多いものの、学生たちの政治的志向は比較的多様性が見られます。一方で、医学部や理工系の学部などでは、アメリカ全体の平均に近い政治的傾向を示すことが明らかになっています。
人文系学部の「極端な」主張がもたらす問題
ハーバード大学の学内風景。同大学が直面する政治的・学術的な課題を象徴する一枚。
ハーバード大学が抱える最大の問題は、人文系学部にあるとラムザイヤー教授は指摘します。これらの学部では、民主党支持が圧倒的であり、さらには「fringe(極端な)」と呼ばれる主張を持つ学生が少なくありません。例えば、イスラム組織ハマスがイスラエルに対して武力攻撃を行った際、30を超える学生団体が連名で「素晴らしいことだ」と称賛し、「すべての責任はイスラエルにある」とする声明を発表しました。これは、まさに彼ら人文系学部の急進的な学生たちが主導したものでした。このような過激な政治的姿勢は、大学全体のイメージにも影響を与えかねない問題となっています。
トランプ政権による資金停止の皮肉な影響
ハーバード大学キャンパスでトランプ政権に抗議する学生たちの集会の様子。
ドナルド・トランプ政権がハーバード大学への資金援助を打ち切った際、実際に影響を受けたのは、連邦政府の研究資金に大きく依存する理系や医学部の関係者でした。皮肉なことに、これらの学部には共和党を支持する人々も多く含まれていました。一方で、人文系の過激派学生たちは、理系学部のように多額の連邦政府の研究資金に依存しているわけではないため、この資金停止による直接的な影響は限定的でした。トランプ政権の狙いがハーバード大学内の左派色の強い勢力、特に人文系の急進派に圧力をかけることだったとすれば、その効果は必ずしも意図した通りには現れなかったと言えるでしょう。
結論
J・マーク・ラムザイヤー教授の指摘は、ハーバード大学が直面する政治的・学術的な課題の複雑な側面を浮き彫りにします。トランプ政権による資金停止は、単なる「学問の自由」への介入という表層的な報道の裏で、大学内部の学部ごとの政治的傾向の差、特に人文系学部における「極端な」主張の広がりという根深い問題が背景にあったことを示唆しています。結果として、この資金停止が意図した標的とは異なる層に影響を及ぼしたという事実は、現代アメリカ社会における政治的二極化と、それが学術機関に与える影響の難しさを物語っています。
参考文献
- Original Source: news.yahoo.co.jp/articles/99ec63f700c55ab37fb8c90ca76ec5d6e8874b99