アディーレ法律事務所同僚殺害事件:ネット上の「同情論」を覆す元従業員の証言

過払い金請求や債務整理のCMで広く知られる「アディーレ法律事務所」の池袋本店オフィスで発生した同僚殺害事件は、社会に大きな衝撃を与えました。事件直後からインターネット上では、不確かな情報に基づいた容疑者への「同情論」が拡散される事態となりました。しかし、加害者と被害者の双方を知るアディーレの元事務員が「デイリー新潮」の取材に応じ、その内容はネット上の言説とは大きく異なるものでした。本記事では、当時の状況や関係者の証言に基づき、事件の真相に迫ります。(本記事はデイリー新潮2025年7月7日配信記事をもとに加筆・修正しており、日付や年齢、肩書は当時のものです。)

事件の経緯と警察の見解

事件は7月1日の正午前、アディーレ法律事務所のオフィス内で発生しました。渡辺玲人容疑者(50)は、デスクで業務にあたっていた芳野大樹さん(36)の背後に忍び寄り、突然抱きかかえるようにして所持していたサバイバルナイフを喉元に突き刺しました。その後も執拗に首元を狙って刺し続け、芳野さんは病院に搬送されたものの、まもなく死亡が確認されました。

犯行後、渡辺容疑者はオフィスを出て近くの交番へ自首。殺人未遂容疑(後に殺人容疑に切り替え)で緊急逮捕され、「職場で嫌なことがあり以前から芳野さんに恨みを持っていた。我慢の限界がきて刺した。痛みを与えたかった」と動機を供述しました。しかし、警視庁の捜査では、芳野さんに何ら非は認められず、渡辺容疑者の一方的な恨みによる犯行と見られています。

警視庁の担当記者は、「二人は同じオフィスに勤務していましたが、ほとんど接点がなかったと見られ、職場からもトラブルがあったという話は全く上がってきていません」と述べています。二人の元同僚であるAさんもこの見解を裏付けています。「二人は同じ『債務整理部』に所属していましたが、芳野さんは『業務管理課』、渡辺容疑者は『過払統括課』とそれぞれ別のチームでした。二つの課は仕事上の接点はほとんどなく、休憩時間を含め、二人が話しているのを見たこともありません」とAさんは証言しました。

アディーレ法律事務所のオフィスに捜査員が入る様子。サンシャイン60内の現場検証アディーレ法律事務所のオフィスに捜査員が入る様子。サンシャイン60内の現場検証

職場での「異質な存在」:加害者の人物像

渡辺容疑者がアディーレ法律事務所に入社したのは2023年頃だったとAさんは語ります。彼が所属していた過払統括課は約40人の規模で、その中で渡辺容疑者は最年長でした。事務員の採用においては、高い離職率という背景もあり、学歴や年齢は不問とされていました。Aさんの話によれば、渡辺容疑者には消費者金融での勤務経験があったという噂がありましたが、本人から直接聞いたことはないとのことです。

入社後すぐに、渡辺容疑者は職場で「ヤバい奴」(危険な人物)として認識されるようになったといいます。「妙に馴れ馴れしいのです」とAさんはその理由を説明します。事務員の多くは20代から30代で、年下の同僚が多いにもかかわらず、彼は最初から「タメ口」(敬語を使わないくだけた話し方)で話しかけてきたそうです。それだけでなく、不快なちょっかいを出すことがあったといいます。

Aさん自身も背筋が凍るような経験をしました。棚で資料を探して作業していた際、突然背後から忍び寄られ、耳元で「体調大丈夫?」とささやかれたのです。前日にAさんが体調不良で欠勤していたためでしたが、渡辺容疑者がまだ入社して数日しか経っていない時期の出来事でした。同様に、いきなり脇腹をコチョコチョとくすぐられた同僚もいました。退勤時に待ち伏せされ、一緒に帰ろうと誘われた同僚もいたといいます。Aさんは、「ちなみに、ちょっかいを出されたのは私も含め全員男性で、女性職員には近寄ろうともしませんでした」と付け加えています。これらの証言は、渡辺容疑者が職場内で孤立し、周囲に不快感を与えていた実態を浮き彫りにしています。

アディーレ法律事務所の同僚殺害事件容疑者、渡辺玲人(50)の顔写真アディーレ法律事務所の同僚殺害事件容疑者、渡辺玲人(50)の顔写真

本件は、被害者には全く非がなく、加害者による一方的な恨みに基づく悲劇的な事件であったことが、警察の見解と元同僚の証言から明らかになっています。インターネット上で拡散された「同情論」は、事実に基づかない憶測であり、情報の真偽を慎重に見極めることの重要性を改めて示しています。


参考文献: