灼熱の太陽が照りつける夏の日、北千住から東武鉄道の特急「りょうもう」に揺られ、埼玉県、栃木県を横断し、群馬県へと足を踏み入れた。車窓に広がるのは、都会の喧騒とは無縁ののどかな田園風景だ。今回目指すのは、日本国内で唯一、ヘビに特化した専門施設である「ジャパン・スネークセンター」。その知られざるディープな世界への探訪が始まる。
東武鉄道桐生線「藪塚」駅で下車すると、小さな駅舎から一歩外へ出た瞬間、照りつける日差しと熱気が肌を刺す。田んぼの合間を縫うように伸びるコンクリートの道を歩いていくと、その名の通り「蛇川」と名付けられた川が静かに流れていた。しばらく進むと、こんもりとした里山が姿を現す。この一帯は“新田義貞の隠し湯”として知られる「やぶ塚温泉郷」の地だ。緩やかな坂道を登り、細い小道を進むと、前方にはどこか不思議な雰囲気を醸し出す入り口が見えてくる。ポップなイラストで描かれたヘビたちが「ようこそ!」「WELCOME!」と歓迎するノスタルジックな看板に誘われるように、その敷地へと足を踏み入れた。
ジャパン・スネークセンターの外観:群馬県太田市藪塚町に位置する国内唯一のヘビ専門施設
ここは群馬県太田市藪塚町に位置する「ジャパン・スネークセンター」だ。1965年(昭和40年)に開園して以来、ヘビ類を専門的に展示・研究している、まさに「ヘビの動物園」である。大人1000円(中学生以上)、子ども500円の入園料で、世界各国から集められた約200匹もの多様なヘビたちが飼育され、その生態が日々研究されている。中には猛毒を持つヘビや、想像を絶するような大蛇も含まれており、他では見ることのできない貴重な体験ができる。敷地内には、長年の歴史を感じさせる看板や、年季の入った展示棟が立ち並び、訪れる者には懐かしさ、高揚感、そしてある種の恐怖が入り混じった複雑な好奇心が湧き上がってくる。
まず足を向けたのは、鮮やかなブルーの建物だ。その壁に描かれた「毒蛇」の真っ赤な文字が強く目を引くここは、「毒蛇温室」である。「ご自由にお入りください」の看板に誘われ、期待と少しの緊張を胸に、薄暗い室内へと足を踏み入れた。ガラスケースの中には、動物番組でしか見たことのないような、世界各地の珍しい毒ヘビたちが静かにその姿を見せている。日本固有の毒ヘビである「マムシ」や「ヤマカガシ」も、それぞれのケースに並んで展示されている。特に注目すべきは、2008年に発生した「原宿毒蛇事件」で押収された猛毒の「トウブグリーンマンバ」だ。かつて世間を騒がせたこのヘビは、今、この温室で穏やかに余生を過ごしている。この事件は、東京都渋谷区の原宿駅近くに住む男性が無許可で毒ヘビを飼育し、指を咬まれて一時意識不明の重体となり、動物愛護法違反(特定危険動物の無許可飼育)の疑いで逮捕されたものだ。スネークセンターは、このような特別な状況下にある動物たちの保護と研究にも重要な役割を担っている。
「ジャパン・スネークセンター」は、単なるヘビの展示施設に留まらず、その歴史、研究活動、そして希少なヘビたちの保護を通じて、私たちに自然界の多様性と危険性、そして共生の重要性を教えてくれる場所だ。群馬の奥地にひっそりと佇むこのユニークな「ヘビの動物園」は、訪れる人々に忘れられない深い印象と学びを提供し続けている。
参考文献:
- Yahoo!ニュース. (2025年8月24日). 暑い夏に「毒ヘビ」がいっぱい!群馬「ジャパン・スネークセンター」の衝撃. https://news.yahoo.co.jp/articles/9b61e26e1a8a09ef398f0f9b95848c156fd09257