お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣氏と梶原雄太氏が日常や社会問題を語り合うYouTubeチャンネル「毎週キングコング」。その中でも特に人気を集めた「下町ロレックス」と呼ばれる配信回が、この度漫画化された。80分を超える長尺ながら350万回を超える再生数を記録したこのエピソードは、梶原氏が自身のYouTubeチャンネル「カジサック」の登録者数200万人突破を記念し、スタッフと共に高級時計のロレックスを購入しに行くというシンプルな内容だ。物欲も時計の知識も皆無な“おじさん”がただロレックスを買いに行く、という驚くほど中身のない話がなぜこれほど多くのファンを魅了し、今もなお愛され続けているのか?西野亮廣氏が、その異例のヒットの理由とAI時代のコンテンツ価値について語る。
虚構と現実が交差:ラーメン店「蓬莱軒」の意外な発見
「下町ロレックス」のヒットの背景には、作り話が現実と結びつくという予期せぬ出来事があった。YouTube動画の前編で西野氏が語った「山梨にある山下さん親子が切り盛りするラーメン屋」という架空の話を、編集部が調査したところ、驚くべき事実が判明した。検索すると「蓬莱軒」という実在する名店がヒットし、取材に至ったのだ。西野氏はこれに対し「やばっ……。あの話って、完全に僕の作り話ですから。蓬莱軒さんも何のために取材に来たのか、よくわかんなかったんじゃないすか?」と驚きを隠せない様子だった。
キングコングの西野亮廣さん。人気YouTube企画「下町ロレックス」のヒット要因について語る。
さらに、この「蓬莱軒」は日本で支那そばを復活させた名店であり、店主の奥様がキングコングの大ファンで、20年前の山梨大学の学園祭での出演も観に行っていたという偶然の縁も発覚した。これには西野氏も「嬉しい!まさかのご縁があったんすね」と喜びを語った。この架空と現実が交差するエピソードが書籍化されることについて、西野氏は「やっぱり、この本に関わっている人全員、バカなんじゃないかって(笑)」と、その面白さを肯定的に表現した。
AI時代に「バカなノリ」が持つ唯一無二の価値
西野氏は、「下町ロレックス」のヒットを通じて、AI時代のコンテンツにおける新たな価値観を提示する。彼は「ポジティブに捉えると、今ってわからないことは全部AIが教えてくれる時代じゃないですか。だからAIで生成できないものは何かって考えるんですけど、やっぱ『バカなノリ』にこそAIには絶対に作れない価値があって、そこが面白くなってくるのは間違いないと思うんです」と語る。AIが効率的に情報を提供し、高度なクリエイティブを生み出す現代において、人間特有の「無意味さ」や「おかしさ」が持つ魅力が再評価されているというのだ。
漫画『下町ロレックス』に登場するラーメン屋「やま下」。架空の店が現実と交錯したエピソードを象徴する。
テクノロジー企業の代表取締役であるけんすう氏がSNSで「下町ロレックスはAI時代のコンテンツづくりの教科書になる」と発言したことについて、西野氏は「悪ふざけっしょ。それはもう、けんすうさんの悪ふざけっすよ。おっしゃってる意味はわかりますよ。言ってることは間違ってないですけど、けんすうさんは絶対にふざけて書いてると思いますけどね」と冗談めかしながらも、その本質を捉えていることを認めた。この「バカなノリ」が、AIには到達できない人間の創造性の領域として、今後のコンテンツ制作において重要な要素となる可能性を示唆している。
結論
キングコング西野亮廣氏が語る「下町ロレックス」の異例のヒットは、単なるお笑いエピソードに留まらない。物欲ゼロの男が高級時計を買いに行くという「中身のない話」が、現実との奇妙な接点を持ち、AI時代におけるコンテンツの新たな価値を浮き彫りにした。効率性や情報量が重視される現代において、「バカなノリ」や人間味あふれる物語が持つ唯一無二の魅力は、今後さらに多くの視聴者や読者を惹きつけることだろう。この現象は、デジタル化が進む社会における人間らしいコンテンツのあり方を考える上で、貴重な示唆を与えている。
参考資料
- キングコング西野亮廣「下町ロレックス」ヒットの理由を語る「この本に関わっている人全員、バカなんじゃないかって(笑)」. Yahoo!ニュース, 2025年8月25日. https://news.yahoo.co.jp/articles/5bd1ef2970037c11f1ed0ca42f789fbd62d41cc5