日本の医療界に変化の波:「直美」医師の増加と保険医療の人材流出

若い世代を中心に美容医療への関心が高まる中、2年間の初期研修後すぐに美容医療の道を選ぶ「直美」(ちょくび)と呼ばれる医師が急増しています。この現象は、日本の根幹を支える保険医療現場での医師不足を深刻化させ、医療システムに大きな影響を与え始めています。一体、今の医療現場で何が起きているのでしょうか。その実態に迫ります。

「美容外科医こそが私の天職」直美医師の動機

大阪市内の美容クリニック院長、木家佑理子さん(33)も「直美」医師の一人です。彼女は「患者様に喜んでいただくのが一番のやりがい」と語り、中学生の頃からの美容への強い関心から「美容外科医以外の道は考えたことがない」と言います。直美とは、初期研修終了後、内科や外科といった一般的な診療科を経由せず、直接美容医療分野へ進む医師を指す言葉です。

大学病院の過酷な現実が若手医師のキャリアを変える

東京都内の美容クリニック「MK CLINIC」院長、石田雄太郎さん(31)も直美医師です。大学在学中は小児科志望でしたが、初期研修で大学病院の過酷な労働環境や厳格な上下関係を目の当たりにし、考えを変えました。石田氏は「数年間続く『下積み生活』では、医師でなくてもできる仕事や書類管理に追われ、奴隷のように扱われることもあった。メンタルを病んで辞める先輩・同級生も多くいた」と語ります。

大学病院で働く若手医師の姿、厳しい保険医療の現状を象徴大学病院で働く若手医師の姿、厳しい保険医療の現状を象徴

データで見る「直美」医師の急増と医療界への影響

「過酷な労働環境」や「診療報酬の伸び悩み」から保険診療が敬遠され、自由診療の美容医療へ進む医師が増加しています。2022年の国の調査では、「直美」医師は全国で198人に達し、過去10年間で約12倍に急増。大手美容外科の麻生泰統括院長(53)は、東大医学部卒といった優秀な人材が美容医療業界に流入している現状を挙げ、「クリニック発展を考えれば、経営者として優秀な人材を確保するのは当然」と述べました。

「直美」医師の増加は、患者のニーズに応える美容医療の発展を促す一方で、日本の根幹を支える保険医療現場の人手不足を一層深刻化させる可能性を秘めています。若手医師の多様なキャリアパスと、持続可能な医療提供体制のバランスをいかに図るかが、今後の日本の医療にとって重要な課題となるでしょう。


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