近年、日本国内で外国資本による不動産買収が増加しており、それに伴う住民トラブルが深刻化しています。特に、中国系企業によるマンション買収は、一部の地域で住民の生活基盤を脅かす事態に発展しています。自民党の下村博文・元文部科学大臣は2025年8月25日、X(旧Twitter)上でこの問題について具体的な事例を挙げながら警鐘を鳴らし、ネット上で大きな注目を集めました。この問題は単なる個別の不動産トラブルに留まらず、日本の法制度の隙間を突いた社会全体に関わる重大な課題として、早急な対策が求められています。
板橋区で発生した「生活を人質にした追い出し」問題
下村博文氏は自身の地元である東京都板橋区の事例を取り上げ、「私の地元の板橋一丁目で、とんでもないことが起きています」と問題の深刻さを訴えました。具体的には、ある中国系企業がマンションを購入した直後、住民への説明もなく家賃を従来の2.5倍に引き上げました。さらに、そのマンションの一室が許可なく民泊として利用され始め、これにより既存住民の生活環境は大きく乱されました。
下村博文氏が外国資本による不動産買収問題について懸念を表明する様子
事態はさらに悪化し、所有権が別の中国系ペーパーカンパニーへと移管されると、今度は共用部分の電気や水道代が支払われなくなり、結果として住民が日常的に利用するエレベーターまで停止する事態となりました。こうした状況により、高齢者や子育て世帯は安心して暮らすことができなくなり、多くの住民が退去せざるを得ない状況に追い込まれ、最終的にはわずか11世帯が残されるのみとなりました。下村氏は、この一連の出来事を「ただのマンショントラブルではなく、『生活を人質にした追い出し』であり、日本の制度の穴を突いた重大な問題である」と厳しく指摘しています。彼はまた、住民から直接聞き取りを行い、「生活インフラが人質にされる日本でいいのか。板橋で起きていることは、全国どこでも起こりうる問題です。見て見ぬふりはできません」と、問題の普遍性と政府の対応の必要性を強調しました。
全国規模で深刻化する不動産買収と政府の対応の遅れ
同日公開された自身のYouTubeチャンネルの動画「なぜ日本の不動産が外国資本に狙われるのか?」において、下村氏は板橋区の事例をさらに詳しく解説しました。住民への聞き取りからは、家賃の不安定な状況や共用部の問題が「全く解決はしてないというか、もっと深刻な問題だということが明らかに」なったと述べています。そして、この種の不動産買収に伴うトラブルは特定の地域に限らず、日本全国で発生しているとの認識を示しました。
このような状況に対し、日本政府も全く無策ではないと下村氏は説明します。政府内閣府には「不当な外国人の、非合法的な部分について対処しようということで、外国人問題を扱う新たな部署ができた」と、問題解決に向けた体制整備が始まったことを明らかにしました。しかし、その一方で、「外国人の土地、あるいは不動産の購入の問題に規制」を設ける方針については、「具体的にはできていない」現状を指摘し、「これをぜひ早急にしていかないと」と強い危機感を表明しました。政府の対応が追いつかない現状が、問題の深刻化を招いている可能性があるのです。
WTO GATS協定と諸外国の規制事例から学ぶ日本の対策
下村氏は、日本の土地を外国人が購入することに規制をかけることが難しい理由についても言及しました。その背景には、日本が加盟しているWTO(世界貿易機関)のGATS協定(サービス貿易に関する一般協定)があります。この協定には「国籍とか人種を問わず、国内において差別してはならない」という原則が含まれており、これが日本政府が外国人による不動産取得に対し、慎重な姿勢を取らざるを得ない大きな理由となっています。この国際的な枠組みが、国内問題への対応に制約を与えている現実があるのです。
しかし、下村氏は他の多くの国々が同様の問題に直面しながらも、「独自に(対策をしている)」点を強調しました。例えば、外国人が土地を取得した場合に税金を10倍にする措置や、新たな法的な網を被せることで、外国資本がその国の土地や不動産を容易に購入できないようにするなどの「いろんな工夫」が諸外国では既に始まっています。これらの国際的な事例は、日本にとっても参考となる具体的な対策のヒントを与えています。
下村氏は、日本が取るべき対策として、「新たな安全保障」の観点や、「きちっと情報が公開される、きちっと説明できる」という「新たな開示条件」を設けることを提案しました。これによって「事実上外国資本によって不動産、マンションとかの購入がハードルを高くすることによって(対策できる)」と主張しており、国際協定の枠内で実質的な規制を導入する可能性を示唆しました。
結論:日本の生活基盤を守るための法整備の急務
下村博文氏の警鐘は、外国資本による日本の不動産買収問題が、単なる経済活動の自由を超え、住民の生活、ひいては社会の安定そのものを脅かす可能性があることを明確に示しています。特に、板橋区で発生したような「生活を人質にした追い出し」は、日本の法制度の「穴」を悪用した深刻な事態であり、全国どこでも起こりうる問題として認識する必要があります。
政府は外国人問題に対応する新たな部署を設置したものの、外国資本による不動産購入に対する具体的な規制策は未だ確立されていません。WTO GATS協定による制約は存在しますが、諸外国の事例が示すように、国際的な原則を遵守しつつも、自国の安全保障や国民の生活を守るための実効性のある法整備は可能です。透明性の高い情報公開義務や、特定のリスクを伴う不動産取引に対する厳しい条件設定など、多角的なアプローチを通じて、日本の貴重な土地や不動産が不当な目的で利用されることを防ぎ、国民が安心して暮らせる社会を築くための早急な取り組みが強く求められます。
参考資料
- Yahoo!ニュース: 自民・下村博文元文科相、中国系企業によるマンション追い出し問題提起 「生活インフラが人質にされる日本でいいのか」
- J-CASTニュース: 「全国どこでも起こりうる問題です。見て見ぬふりはできません」と下村博文氏
- 下村博文氏YouTubeチャンネル: なぜ日本の不動産が外国資本に狙われるのか? (※元の記事に動画URLが直接示されていないため、一般的な記載とした)