国際協力機構(JICA)が千葉県木更津市をナイジェリアの「アフリカ・ホームタウン」に認定したことを巡り、SNS上で「移民が増える」といった誤った情報が拡散し、住民の間に大きな不安が広がっています。木更津市では連日、多数の問い合わせや抗議電話に対応に追われており、事態の収束が見えない状況です。市側はホームページで誤情報を否定し、渡辺芳邦市長は「ホームタウン」という名称が誤解を招いた可能性を指摘し、JICAとの協議を進める意向を示しています。
誤情報拡散による市民の混乱と市役所の対応
木更津市役所では、連日、職員約15人が誤情報に基づく抗議電話の対応に追われています。担当部署の男性係長は、1日に20件以上の電話を受けたと困惑の表情を浮かべました。最も多いのは、「木更津市が移住の受け入れを進めるのか」という住民からの不安の声です。誤情報を信じ込み、「ナイジェリア人が大挙してくれば治安が悪くなるのではないか」「木更津に家を買ったが、引っ越したい」といった切実な声も寄せられています。25日までに市のホームページを通じて届いたメールは700件を超え、26日も電話は鳴りやまない状況が続いています。
木更津市役所で住民からの問い合わせに対応する職員。JICAアフリカ・ホームタウンに関する誤情報が拡散し、不安の声が相次いでいる。
「ホームタウン」事業の真の目的と誤解の背景
今回の混乱の発端は、アフリカ各国と交流を続けてきた木更津市など4市が、8月21日にJICAから「JICAアフリカ・ホームタウン」として認定されたことにあります。木更津市は、東京オリンピック・パラリンピックでナイジェリアのホストタウンを務めた経緯があり、今後も同国で野球・ソフトボールを通じた若者の教育支援を計画しています。
JICAによると、「ホームタウン」事業の本来の目的は、交流強化を通じてアフリカが抱える諸課題の解決に貢献するとともに、日本の地方を活性化させることにありました。しかし、アフリカの現地メディアや政府による情報発信の中に、「移民の受け入れ促進」や「特別な査証の枠組みを創設」といった事実とは異なる内容が含まれていました。これらが根拠となり、SNS上で誤った情報が急速に拡散されたのです。木更津市は8月25日には公式サイトで「SNS等で報じられている事実はございません」と明確に否定しています。
渡辺市長と熊谷知事の見解と今後の対応
渡辺市長は記者会見で、「SNSを含めて色々なことを考えさせられている。正しくない情報が伝わりやすい社会、事実確認のない中での発信が続き、それが広がって影響が出るという風潮はどうなのか」と懸念を表明しました。また、「私どもも、しっかりとした情報発信を考えていかないといけない」と述べ、情報伝達の重要性を強調しました。
さらに、市長は「ホームタウン」という名称についても言及し、「その言葉でイメージする内容と我々がやっていることは少し違う。その名前がいいのかということもJICAとしっかり話をしたい」と述べました。「ホームタウン」という言葉が「移住・移民」を想起させる点があるため、誤解を招きやすいとの認識を示したものです。一方で、ナイジェリアとの関係については、「人材教育は市民に心配をかけない形で取り組みたい。発展途上国が大きくなる中で、少しでもお手伝いできれば」と述べ、交流は継続する意向を明らかにしました。
この問題に対し、千葉県にも8月25日と26日の2日間で、電話やウェブサイトを通じて計200件近くの問い合わせが寄せられました。その多くは「ホームタウン構想によって、移民が大量に来るのではないか」という内容でした。熊谷俊人知事は25日に自身のX(旧ツイッター)で、日本とナイジェリア両政府の発信内容に食い違いがあり、不安を感じている人がいることを認めつつも、「当該自治体における在留制度の運用が変わることはありませんし、在留制度が国会審議等なく変更されることもあり得ません」と、明確にデマを否定し、冷静な対応を呼びかけました。
まとめ
木更津市がJICAの「アフリカ・ホームタウン」に認定された件を巡る誤情報の拡散は、SNS時代の情報伝達の難しさと、それが地域住民に与える深刻な影響を浮き彫りにしました。市と県は迅速な情報公開と誤情報の否定に努めており、特に「移民が増える」といった根拠のない情報に対しては、公的な立場から明確な否定を行っています。今後、木更津市はJICAと連携し、「ホームタウン」の名称や情報発信のあり方について再検討を進めることになりますが、ナイジェリアとの国際交流は、住民の理解と安心を第一に進められることが期待されます。