ドナルド・トランプ前米大統領は、ウクライナによるロシア産原油供給パイプライン「ドルジバ・パイプライン」への攻撃に激しく憤慨している。この攻撃により、NATO加盟国ハンガリーとスロバキアの主要エネルギー供給路が使用不能となり、両国の安全保障に深刻な影響を及ぼしているためだ。自らを「和平仲介人」と称するトランプ氏にとって、ウクライナ戦争の複雑な展開は、その終結に向けた自身の思惑を大きく狂わせるものとなっている。
ウクライナ紛争の終結を模索するドナルド・トランプ元米大統領。自身の意に反する事態に苛立ちを見せる
ハンガリー首相オルバン、トランプへ不満表明の書簡
ハンガリーのビクトル・オルバン首相は、ドルジバ・パイプライン攻撃が同国のエネルギー事情に及ぼす影響について、トランプ氏に書簡を送った。この内容は、支持者向けFacebookグループで共有され、『マジャール・ネムゼット』紙が報じた。ハンガリーはEUやNATO加盟国ながら、ウクライナ戦争への直接関与を避け、ロシアとの関係を維持している異例の立場だ。ウクライナのEU加盟にも反対し、EUとウクライナがハンガリーを紛争に引き込もうとしていると非難している。ウクライナ当局は、パイプラインがロシア軍へ燃料供給しているため攻撃対象としたと説明する。
「そんな話、聞きたくなかった」トランプの直筆返答
オルバン首相の書簡に対し、トランプ氏は手書きで「ビクトル、こんな話は聞きたくなかった。非常に腹立たしい。スロバキアにも伝えてほしい。あなたは私の大事な友人だ」と返答。このメッセージは、ハンガリー市民同盟所属の欧州議会議員アンドラーシュ・ラースローによりX(旧ツイッター)に投稿された。オルバン首相は、ドルジバ・パイプラインへの攻撃が、アラスカでのトランプ氏とプーチン大統領による「歴史的会談」(8月15日)の数日前に行われ、その後も攻撃が続いていると指摘した。
エネルギー「命綱」への影響と地政学的な波紋
オルバン首相は書簡で、「このパイプラインは、原油を輸入する他の手段を持たないハンガリーとスロバキアへの供給を担っている」と強調した。さらに「ハンガリーは電力とガソリンでウクライナを支援しているのに、ウクライナは供給パイプラインを爆撃した。極めて非友好的な行動だ!」とウクライナを非難。ドルジバ・パイプラインは両国にとって「命綱」であり、その停止は経済と国民生活に直接的な打撃を与える。この攻撃は、欧州のエネルギー供給網の脆弱性と、ウクライナ戦争の地政学的な複雑さを露呈させた。
今回のドルジバ・パイプライン攻撃に対するトランプ前大統領とオルバン首相の反応は、ウクライナ戦争が単なる軍事衝突に留まらず、欧州のエネルギー安全保障と地政学に深く影響を及ぼす現実を浮き彫りにした。「和平仲介人」を自称するトランプ氏の苛立ちは、この複雑な紛争解決の困難さを示唆。ハンガリーがトランプ氏の平和追求に期待する一方で、国際社会は紛争終結への道のりの厳しさを認識しており、各国間の継続的な対話と理解が今後一層求められる。
参考文献:
- ニューズウィーク日本版
- マジャール・ネムゼット
- X (旧ツイッター)