石破首相「退陣否定」報道を巡る読売新聞の大誤報:日本ジャーナリズムの終焉か

参議院選挙で大敗を喫した石破自民。昨年の衆院選、今年の都議選に続き、石破政権にとって3度目の敗北となった。世間は当然、石破茂総理が辞任するだろうと見ていた。国民の声を汲み取るかのように、7月には読売新聞が「石破首相 退陣へ」と号外を配布する事態に。しかしその後、石破首相は自らの口で退陣の意思がないことを発表。その意思は変わることなく、今日まで総理の座に留まっている。一体、この裏で何が起きているのか。経済誌『プレジデント』元編集長で作家の小倉健一氏が、この一連の動きと日本ジャーナリズムの現状を解説する。

退陣を否定し、支持率が急上昇する石破茂首相退陣を否定し、支持率が急上昇する石破茂首相

読売新聞「大誤報」の背景にあるジャーナリズムの構造的問題

2025年7月23日は、読売新聞が「石破首相退陣へ、月内にも表明する方向で調整…関税協議の妥結踏まえ意向固める」という大見出しの号外を世に放った日として記憶されるだろう。毎日新聞も同様の報道を行ったが、この出来事は単なる誤報以上の意味を持つ。小倉氏は、この日を「読売新聞が死んだ日――日本のジャーナリズムが一つの終焉を迎えた日」と断じる。報道機関の「死」を招いた病巣は、表面的な過ちよりも深く、暗い場所で進行していたからだ。

7月23日の大誤報は決して些細な過ちではない。最低限の本人確認すら怠った報道は、ジャーナリズムの基本動作を放棄したに等しいと言える。一定クラス以上の報道機関やジャーナリストであれば周知の事実だが、石破茂という政治家は、電話をすれば本人が直接出て気軽に取材に応じてくれる人物である。このような初歩的な確認作業を怠り、世紀の大誤報を放った背景には、読売新聞政治部の深刻な時代錯誤と構造的欠陥が横たわっているのだ。石破茂首相は同日中に「そのような発言は一切していない」と報道内容を明確に否定。本人が退陣の意向がないと主張している以上、読売新聞が何を根拠に退陣意向を報じたのかが問われるべき、極めて由々しき事態だ。

永田町の政治力学と時代錯誤の報道姿勢

かつての派閥政治が隆盛を極めた時代には、主要派閥の領袖が談合すれば首相の首は飛んだ。過去の成功体験に今なお固執する読売新聞政治部は、派閥領袖周辺からのリーク情報こそが永田町の力学を動かすと信じ込んでいたのである。しかし、現在の日本の政治構造は大きく変化している。派閥の影響力は著しく低下し、個々の議員が自身の損得勘定で動くという現実を、彼らは全く理解できていなかった。

古い地図を頼りに未知の航海に出て、自ら座礁した――小倉氏はこの状況をそう表現する。読売新聞の大誤報は、単に事実確認を怠っただけでなく、現代の日本の政治がどのように動いているかという根本的な理解の欠如を露呈した。これは、政治報道に携わるジャーナリストが、永田町の真の姿を見誤り、時代遅れの認識に基づいた取材姿勢を続けていることの証左とも言えるだろう。信頼できる情報源からの直接確認を怠り、過去の慣例に囚われた報道は、読者の信頼を損ね、ジャーナリズム全体の信用を揺るがしかねない。

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