ドナルド・トランプ米大統領(共和党)は26日、ホワイトハウスで開かれた閣議において、「来年の選挙で犯罪は大きなテーマになると思う」と述べ、2026年の中間選挙で「犯罪対策」を主要な争点とする考えを明確に示しました。同氏は、犯罪対策を名目として首都ワシントンD.C.で実施された州兵派遣を、野党・民主党が地盤とする他の都市に拡大する可能性についても繰り返し言及しており、その戦略的意図が注目されています。
犯罪対策を巡るトランプ氏の主張と「成功」の自賛
トランプ大統領は、8月中旬にワシントンD.C.で州兵を動員して以来、「史上最悪だった犯罪状況は大幅に改善した」と自賛しています。さらに、中西部イリノイ州シカゴや東部メリーランド州ボルティモアといった都市でも「犯罪がまん延している」と指摘し、「次はシカゴに行きたい」と述べ、州兵派遣の対象を拡大する意向を示しました。これらの都市は、いずれも民主党が強固な地盤を築いている地域です。
ホワイトハウス閣議で2026年中間選挙の犯罪対策を語るトランプ大統領
民主党知事への批判と政治的思惑
大統領は、州兵派遣に反発するイリノイ州のプリツカー知事やメリーランド州のムーア知事らを「無能」と酷評しました。その上で、「本来であれば自ら私たちに支援を要請すべきだ。共和党は犯罪を止めたいと思っているが、民主党はなぜか犯罪が好きだ」と強く非難しました。
トランプ氏が犯罪対策を名目に州兵派遣で揺さぶりをかける都市は全て民主党の地盤であり、プリツカー氏とムーア氏は民主党の次期大統領選候補としても名前が挙がる有力な政治家です。この強権的な手法を通じて、トランプ氏は民主党が「犯罪に甘い」という印象を有権者に与え、共和党の支持拡大に利用する狙いがあるとみられています。これは、来るべき中間選挙、さらにはその後の大統領選挙を見据えた重要な政治戦略の一環と言えるでしょう。
専門家の見解と戦略の有効性への疑問
共和党の選挙コンサルタントであるカール・ローブ氏は、米政治メディア「ポリティコ」に対し、トランプ氏が不法移民対策と同様に、犯罪対策を民主党の弱点と捉え、攻勢を強めていると指摘しています。しかし一方で、ローブ氏は「実際に暴動などが発生していれば有権者の関心は高まるが、現に発生してはいない」とし、トランプ氏の思惑通りに支持拡大に繋がるかについては疑問を呈しています。有権者の反応は、実際の治安状況と大統領の発言との乖離によって左右される可能性があります。
ワシントンD.C.における死刑制度に関する言及
さらに、トランプ大統領は26日の閣議で、ワシントンD.C.で発生した殺人事件に対し「死刑を求める」と表明しました。「首都で殺人を犯せば死刑だ」と語り、死刑求刑が殺人事件の発生を抑止する効果があると認識を示しました。しかし、米紙ワシントン・ポストなどによると、ワシントン特別区では1981年に死刑が廃止されており、大統領の発言は現行法制度との隔たりがある点も注目されます。
結論
トランプ大統領の「犯罪」を巡る発言と行動は、2026年中間選挙に向けた共和党の主要な選挙戦略の一環として位置づけられます。民主党の地盤である都市への州兵派遣の可能性を示唆し、民主党知事らを批判することで、「犯罪対策に積極的な共和党」というイメージを構築し、支持拡大を図る狙いが見て取れます。専門家からはその有効性に疑問の声も上がっていますが、この戦略が今後の米国の政治情勢にどのような影響を与えるか、引き続き注視が必要です。特に、治安問題は有権者の関心が高いテーマであり、選挙戦において重要な争点となる可能性を秘めています。