北朝鮮軍、兵士の外出取り締まり強化 – 飢餓と窃盗が背景か

北朝鮮で軍人に対する取締まりが再び強化されている。空腹に苦しむ兵士による窃盗が頻発しており、住民には部隊からの無許可外出兵士を通報するよう指示が出されたことが明らかになった。軍隊の劣悪な食事事情は北朝鮮社会で広く知られており、栄養失調を案じる多くの親が、毎月息子や娘に仕送りをしている現状がある。咸鏡北道会寧市の取材協力者が7月末に伝えた情報から、この深刻な事態が浮き彫りになる。

軍官の引率なき外出を厳禁 – 窃盗増加で住民への通報指示も

会寧市の協力者によると、最近は兵士が民家に出入りする行為に対する集中的な取り締まりが実施されているという。部隊から引率の軍官(将校)を伴わずに許可なく外出している兵士を発見した場合、人民班の警備哨所へ申告するよう住民に指示が出された。これは、兵士による窃盗行為が頻繁に発生しているためである。安全員(警察)までもが無断外出兵士の取り締まりにあたり、捕獲した兵士は警務部(憲兵)に引き渡す体制が敷かれている。軍人の犯罪取り締まりは本来、軍隊内の警務部の役割だが、今や警察の任務ともなっている。コロナ・パンデミックを機に、軍人と民間人の接触は厳しく禁止された経緯がある。現在は緩和されつつあるものの、兵士は自由に外出できず、部隊から外出する際には必ず軍官を伴うことが義務付けられている。この厳格な措置は、軍隊内へのウイルス感染拡大防止だけでなく、兵士による強盗やたかりなどの犯罪、さらには情報漏洩を防ぐ目的も含まれる。特に7~8月は主要食料であるトウモロコシの収穫前であり、例年、軍隊への食糧供給が極めて悪い時期にあたる。空腹を抱えた兵士が無断外出して盗みを働く事件が増加していることから、取り締まりが改めて強化されたものとみられる。

北朝鮮の市場で買い物をする兵士、軍官同伴なしの外出が禁止される状況北朝鮮の市場で買い物をする兵士、軍官同伴なしの外出が禁止される状況

親たちが毎月の仕送りに苦悩 – 兵士の劣悪な栄養状態が常態化

朝鮮人民軍の食糧事情が極めて劣悪であることは、数十年前から北朝鮮社会の常識として知られている。その状況は現在も改善される兆しを見せていない。今年から軍部隊が援農作業のため農場に派遣されるようになった。北部地域に住む複数の取材協力者からは、派遣されてきた兵士たちの栄養状態が非常に悪いという報告が寄せられている。「水を求めるふりをして、農村の家々に食べ物をねだりに来る」「兵士が衰弱しているので、農場で間食を与えている」といった声も聞かれる。従来は、栄養失調に陥った兵士は実家へ帰して療養させ、回復後に部隊に復帰させるケースが多かった。しかし、会寧市の協力者によれば、最近は家に戻ることが許されなくなったという。これは、軍隊内の情報が外部に漏洩することを警戒しての措置であるが、同時に部隊への復帰を避けようとする親や兵士が増加していることも理由の一つとされている。そのため、兵士を心配した親が部隊近くまで訪ねて行く事例が増加しており、「毎月、何らかの形で仕送りをするのが当たり前になっている」と協力者は語る。この状況は、北朝鮮軍兵士とその家族が直面する厳しい現実を浮き彫りにしている。

北朝鮮の会寧市や咸鏡北道を含む朝鮮半島北部の地域を示す地図北朝鮮の会寧市や咸鏡北道を含む朝鮮半島北部の地域を示す地図

北朝鮮における軍人への取り締まり強化は、軍隊内の深刻な食糧不足が引き起こす社会問題の表れである。兵士たちが飢えから窃盗に走らざるを得ない現状、そしてその兵士を案じる親たちが苦労して仕送りを続ける姿は、北朝鮮社会が抱える根深い矛盾と困難を示している。政府の監視強化にもかかわらず、本質的な問題である食料供給の改善が見られない限り、同様の事態は今後も続くとみられ、国際社会の関心が引き続き集まることだろう。

参考資料

  • アジアプレス・インターナショナル
  • Yahoo!ニュース (元記事: アジアプレス・インターナショナル)