かねて特定の地域や診療科での「医師不足」は叫ばれてきたが、人材不足が問題になっているのは「看護師」も同様。厚労省の推計では2025年で約27万人の看護師が不足する可能性も指摘されている。日本看護協会によると2023年度の病院における正規雇用看護職員の離職率は11.3%、新卒採用看護職員の離職率も8.8%と人材流出も無視できない。武蔵大学社会学部准教授で医療ジャーナリストの市川衛氏に、深刻化する「看護師不足」の裏に潜む医療制度の問題点を聞いた。
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看護師不足は様々な現場で深刻化していますが、そのなかに「7対1病床」があります。「7対1」というのは看護体制のことで、日中、看護師1人が患者さんを7人担当する配置のことを指します。「7対1」以外にも慢性期一般病棟などで採用される「15対1」や、回復期リハビリ病棟などで採用される「13対1」など様々な種類があります。
「7対1病床」が採用される病院に多いのは救急医療を担う「急性期病院」。急性期病院は、手術が必要な患者さんや、救急搬送された患者さんなど、濃厚な医療処置を必要とする人々を受け入れています。そうした患者さんの変化を早期に発見し、適切なケアを行うため、一般病棟の中でも特に手厚い「7対1」という看護体制が敷かれていることが多いのです。
その重要な病床で看護師が不足している理由はいくつかありますが、精神的なストレスやプレッシャーが大きいことに加え、激務に収入が釣り合っていないと感じる人が多いこともあります。一言でいうと当たり前のことかもしれませんが、ここには医療制度の構造的な問題が潜んでいます。
急性期病棟の看護師が激務なことは想像がつくのではないでしょうか。突然やってくる重症度の高い患者さんの処置をすることもあり、瞬時の判断が求められるケースも少なくない。他の病棟に比べても緊張感が高く肉体的にも精神的にも激しいプレッシャーがかかります。心が折れてしまう看護師も多いですが、7対1病床の看護師は急変する患者さんの容態を観察して適切に処置することが必要なので、高度な技能が求められます。
そうなると、必然的に抜けた穴を埋められる人材の量は少なくなります。元々急性期の看護をやっていた人材を再雇用するという手もありますが、例えば、子育てのため年単位で職を離れていた場合、日進月歩の医療技術やスピード感を取り戻すのは容易ではありませんし、夜勤などの勤務条件が合わないことも多々あります。急性期の看護師はかなりの特殊技能を求められるため、人材を育てるのにも時間がかかります。人材の流入が絞られている以上は人材の流出を抑えることが重要です。人材流出を抑えるのに手っ取り早く効果が高いのは収入を上げることですが、公定価格である診療報酬で収入が決まっている病院経営、とりわけ人件費率が高い急性期病院において、原資を捻出するのは構造的に極めて困難なのです。






