親が75歳を過ぎたら:介護に備える「モノ・カネ・ココロ」の準備

親が75歳以上、いわゆる「後期高齢者」の年齢になると、まだ元気に見えても、私たちは介護について真剣に考える時期を迎えます。実は、人間の健康寿命は男性が72歳、女性が75歳とされており、平均寿命との間には約10年の「不健康時代」が存在します。この期間に備え、いつ介護が必要になっても慌てないよう、今のうちから「モノ(物資)、カネ(費用)、ココロ(精神)」の準備を進めることが極めて重要です。本稿は、主婦の友社編『親が75歳を過ぎたら知りたいことが全部のってる本』の一部を抜粋・編集し、介護に備えるための具体的な知識と心構えをお伝えします。

健康寿命と平均寿命の差:約10年の「不健康時代」に備える

多くの人が「親はまだ元気だから介護は先の話」と考えがちですが、75歳を過ぎると、病気や怪我、認知症などで自立した生活が困難になる日が来る可能性が高まります。日本は世界有数の長寿国で、平均寿命は男性81歳、女性87歳ですが、健康上の問題なく日常生活を送れる期間を示す健康寿命は、男性が72歳、女性が75歳にとどまります。この健康寿命の後に続く約10年間は、何らかのサポートが必要となる「不健康時代」と捉えるべきでしょう。

介護の責任を子どもだけが背負う時代は終わりつつあります。2000年の介護保険制度開始以降、日本社会は「地域全体で高齢者を支える」方向に大きく舵を切りました。これにより、かつてのような「親の面倒は長男夫婦が見る」という考え方は過去のものとなりつつあります。しかし、「介護は子どもがすべき親孝行」という根強い考え方や、病院が長期入院を許さない現状から、介護への不安を感じる方も少なくありません。介護保険や地域サービスを賢く活用することで、親と子の共倒れを防ぎ、社会の変化に対応した知識を身につけることが、まだ親が元気なうちに準備を始める上で不可欠です。

高齢の親を支えるイメージ。介護の準備は早期から高齢の親を支えるイメージ。介護の準備は早期から

親が元気なうちから始める介護準備の「5つの心得」

「後期高齢者」という呼称には賛否がありますが、実際に75歳頃から要介護状態になる方は徐々に増加します。親が突然倒れてから慌てるのではなく、早い段階で介護の予兆に気づき、入院や介護に備えるための「モノ・カネ・ココロ」の準備を始めましょう。直接聞きにくいと感じるかもしれませんが、日頃の会話の中から少しずつ情報を引き出していくことができます。

心得1:親の健康状態と通院状況を把握する

親が通院している病院、かかりつけ医の名前や連絡先、現在抱えている持病の有無、そして健康保険証、診察券、お薬手帳の保管場所などを事前に確認しておくことが大切です。可能であれば、一度かかりつけ医に挨拶し、親の健康状態について簡単な情報交換をしておくと、いざという時の連携がスムーズになります。

心得2:生活の様子や家の中などを観察する

親の自宅を訪れた際には、室内が散らかっていないか、冷蔵庫の中に消費期限や賞味期限切れの食品が溢れていないかなどをさりげなくチェックしましょう。認知症が進行すると、不要なものを買いすぎてしまったり、管理能力が低下したりする傾向が見られることがあります。これらのサインに早期に気づくことが、対応の第一歩となります。

心得3:お金と財産の話を少しずつ始める

介護や医療にかかる費用は、原則として親の資金で賄うことになります。そのため、親の年金額や所有する財産について把握しておくことは非常に重要です。これらの情報がなければ、どのような介護サービスを受けられるのか、また、どのような種類の施設に入居できるのかといった具体的な見通しを立てることが困難になります。デリケートな話題ですが、将来のために少しずつ話し合いを進めましょう。

心得4:「終活」に備えて親の希望を聞いておく

「終活」とは、人生の終わりに向けて準備をすることです。例えば、延命治療を受けるか否か、もし身体が不自由になったり認知症になったりした場合に施設への入所を希望するのかなど、親自身の将来に対する希望を早い段階から聞いておくことが大切です。これにより、親の意向を尊重した選択ができるようになり、後悔のない介護へと繋がります。

心得5:緊急時の連絡や支援体制を整える

親が緊急入院するような事態が発生した際に、真っ先に駆けつけるのは誰か、連絡体制はどうするかなど、具体的なケースを想定しながら家族で相談しておきましょう。兄弟姉妹間だけでなく、近隣に住む親戚などとも連携を取り、互いに助け合える体制を整えておくことで、いざという時の負担を軽減することができます。

認知症の重症化を防ぐ:兄弟間での話し合いの重要性

上記の「5つの心得」と並行して、子どもたちがしておきたい重要な準備があります。それは、兄弟姉妹間で将来の介護の方向性について事前に話し合っておくことです。親の介護に対するそれぞれの考え方や、どの程度の関わり方を望むのかを知っておくことで、いざ介護が始まった際に生じる可能性のある意見の相違や摩擦を未然に防ぎ、協力体制を築きやすくなります。早期の話し合いが、認知症の重症化を防ぐための適切なケアにも繋がります。

高齢化が進む日本において、親の介護は多くの家庭で直面する現実です。しかし、適切な知識と準備があれば、親子共倒れになることなく、地域や社会の支援を賢く活用しながら、前向きにこの課題に向き合うことができます。まだ親が元気なうちに、具体的な行動を始めることが、安心して介護を迎えるための第一歩となるでしょう。


参考文献

  • 主婦の友社編『親が75歳を過ぎたら知りたいことが全部のってる本』
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