安倍晋三首相とロウハニ大統領との会談は、核合意をめぐってイランと米欧が激しく対立する中、先進7カ国(G7)で唯一、米国とイラン双方と友好関係を持つ日本外交の強みを印象づけた。首相は中国とロシアに急接近するイランの国際的な孤立を回避し、中東地域の緊張緩和のカギを握る米国との橋渡し役を担いたい考えだ。
ロウハニ師の来日は現職イラン大統領として平成12年のハタミ大統領以来だが、今回はイランと対立する米国に配慮し、簡素な対応にとどめた。19年前は森喜朗首相(当時)との会談の他、天皇陛下(現上皇さま)との会見や国会演説など歓迎ムードだったのに対し、今回のロウハニ師の日本滞在は事実上半日程度で、公式行事は首脳会談と夕食会だけ。通常、首脳会談後に開く共同記者発表も見送られた。日本政府関係者は「イランを敵視するトランプ米大統領を不快にさせるのは得策ではない」と話す。
一方で、核合意を離脱した米国と違い、日本は英仏独などとともにイランに核合意の順守を求める立場を維持する。イランは米国による経済制裁で打撃を受け、米ドル決済回避に向けた通貨協定や原油取引を模索するなど中露との結びつきを強めている。イランの中露への傾斜で中東地域で対米包囲網が形成されれば、米国の影響力低下を招き、原油の8割を依存する日本の安全保障に影を落としかねない。イランとの友好関係を保つことは日本の国益に直結する。
経済的苦境にあるイランは、水面下で具体的な経済支援を日本に求めているとみられるが、イランへの支援は米国の制裁を骨抜きにすることを意味し、実現は「不可能に近い」(外交筋)。米イラン双方と良好な関係を持つ日本ゆえに当面は難しいかじ取りが続きそうだ。(小川真由美)