政府が発令する緊急事態宣言で、都道府県知事は新型コロナウイルス感染症への対応に、より強い姿勢で臨むことが可能となる。強制力を伴う措置もあるが、「外出禁止」措置の規定はなく、「ロックダウン(都市封鎖)」はできない。一方、外出自粛要請に法的根拠が加わることで、国民の行動に強い心理的影響を及ぼす効果が期待される。
緊急事態宣言は3月に成立した改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく。「全国的かつ急速な蔓延(まんえん)により国民生活や経済に甚大な影響を及ぼす恐れがある」などの要件を満たし、専門家の判断を経た上で、首相が本部長を務める政府の対策本部が区域と期間を指定して出す。
宣言を出すと、該当区域の都道府県知事は、(1)不要不急の外出自粛の要請(2)学校、福祉施設、映画館、百貨店などに対する休業や使用停止の要請、指示(3)医薬品や食品などの所有者に対する売り渡しの要請(4)臨時の医療施設を開設するための土地や家屋などの同意なしでの使用(5)運送業者などへの緊急物資運送の要請、指示-といった措置をとることができる。
政府はすでに(1)と(2)を実施しており、宣言で法的根拠が加わる。(2)と(5)は、従わない場合に「指示」という強い措置が可能だが、強制力はない。(3)と(4)は強制措置となり、(3)では物資を隠したり運び出したりすれば最高懲役6カ月、罰金30万円の罰則が科される。
一方、英国、フランス、イタリアなどが実施しているロックダウンのような罰則を伴う外出禁止措置や生活必需品以外の店舗閉鎖などの規定はない。
電気、水道などのライフラインの事業者とは「総合調整」を行うことができる。最小限の機能を維持するためで、止めることが前提ではない。交通機関も同様で、JR東日本幹部は「必要最小限の足として運行を止めるわけにはいかない」と話す。
特措法とは別に、感染症法には特定の患者がいる周辺一帯の交通を制限できる規定があるが、消毒目的で最大72時間までのため、都市全体は対象にできない。
こうしたことから、生活が不便になる可能性はあるが、多くの一般国民への直接的な影響はなさそうだ。むしろ物流や交通の停止は生活維持の観点からマイナス面もあり、政府は過度の活動自粛に陥らないよう宣言後に経済活動をどの程度続けたらよいかを示すことも検討している。
日本大危機管理学部の福田充教授(リスクコミュニケーション)は「宣言の最大の効果は法的根拠が加わることで外出自粛要請が、より強いものとして受け取られることだろう。生活が維持できるよう物流などが滞らないような配慮が必要だ」と話している。(市岡豊大)