【主張】米の南シナ海声明 国際ルール無視許されぬ


 ポンペオ米国務長官が、中国による南シナ海のほぼ全域での海洋資源権益の主張を「完全に違法だ」とし、「海洋帝国の一部として扱うことを世界は許さない」と批判する声明を発表した。

 海洋における国際ルールを無視した中国の振る舞いは絶対に認めないとの米国の意思を明確に示したものであり、歓迎したい。

 ポンペオ氏は、中国の南シナ海における主権の主張を全面的に退けた2016年7月の仲裁裁判所判決に触れ、「米国の立場を判決と一致させる」と表明した。

 重要なのは、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるスカボロー礁など、具体的な場所を挙げて、「これらの海域で漁業や資源開発を妨害するのは非合法だ」と非難したことだ。

 南シナ海を軍事拠点化して実効支配を強める中国に対し、東南アジア諸国連合(ASEAN)の沿岸国は漁場を締め出されたり、中国の地質調査船の接近を受けたりして、抗議を繰り返している。

 個別の争いにも、米国が沿岸国の側に立って介入を辞さないとの態度を鮮明にしたものだ。国務省高官は南シナ海をめぐる対中制裁の可能性を示唆している。

 米国の強い意思表示に、法の支配に基づく自由で平和な海を望む国々は呼応すべきだ。茂木敏充外相と菅義偉官房長官が、声明に支持を表明したのは当然である。

 ポンペオ氏は、日本の尖閣諸島への挑発を南シナ海での威嚇と同様、「中国のいじめ」と表現し、指弾する発言もしている。

 肝心なのは、ASEANの対応である。沿岸国にとって、ポンペオ氏の声明は心強いものであるはずだ。だが、ASEANは一方で、中国の経済力に大きく依存し、仲裁裁で勝訴したフィリピンですら、双方から利益を引き出そうと、米中を天秤(てんびん)にかけ、ときに中国寄りの姿勢を取る。

 中国とASEANは南シナ海の紛争防止のための「行動規範」づくりを進めている。

 中国が経済的、軍事的に圧倒的な優位に立った今、1990年代に生まれたこの構想が、双方にとって、公正な国際ルールとして実を結ぶことがあるのか。

 仲裁裁判決は、中国による力ずくの海洋拡大を止める最大のよりどころである。日米やASEAN諸国が声をそろえ、受け入れを求め続けるべきだ。



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