【ワシントン=黒瀬悦成、北京=三塚聖平】深刻化する米中の対立は、互いの在外公館を閉鎖するという前代未聞の事態を招き、さらなる関係悪化は不可避な状況となってきた。トランプ米政権は、米中が過去最悪の関係に陥ったのは中国の習近平体制が知的財産の窃取や東・南シナ海での覇権的行動、国内での人権侵害など、既存の国際規範や秩序を揺るがす振る舞いを活発化させたのがそもそもの元凶であるとして、引き続き厳然とした対応を貫いていく構えだ。
米国務省高官は、中国政府が米政権による南部ヒューストンの中国総領事館閉鎖の報復として中国四川省成都(せいと)市の米総領事館の閉鎖を決めたことに関し、両政府の措置は「趣旨が全く異なる」と指摘し、中国政府による閉鎖決定は不当であるとの立場を強調した。
米政権が中国総領事館を閉鎖したのは、中国が同館を拠点に新型コロナウイルスのワクチン開発を含む先端技術の知的財産窃取やスパイ活動を展開していたとの確信を深めたためだ。
国務省高官は「成都の米総領事館の活動はチベット自治区を含む中国の人々を理解し、彼らにメッセージを発することだ」と述べ、中国の実情を正確に把握するため公館の存在が不可欠だと訴えた。
成都は中国内陸部の主要都市で、米総領事館は1985年に開設された。同総領事館のウェブサイトによると、四川省、雲南省、貴州省、チベット自治区、重慶市を受け持ち、現地採用の150人を含む200人が勤務していた。
中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報は、成都の米総領事館はチベット自治区への干渉に米側が活用してきたとする専門家の見方を伝えた。この専門家は「チベット自治区の安定に良くない影響をもたらした」と主張した。
米政権は、中国が報復として同程度の規模の米総領事館の閉鎖に踏み切るのは「織り込み済み」だったといえる。報復合戦への発展を覚悟した上での中国総領事館の閉鎖は、中国の「お家芸」でもある知的財産窃取を絶対に容認しないとの決意を習体制に明確に示す意図があった。
米政権としては、中国が一連の「有害な行動」(米政権高官)を封印し、態度変更に踏み切るかどうかを見極めつつ、さらなる対中圧力強化に向けた準備を進めていく考えだ。
香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は27日までに、米中が8月に貿易協議を行うとの見通しを報じた。中国側は経済面での利益をちらつかせて米国の態度を軟化させたいものとみられるが、同紙は「貿易問題は中米関係において重要さを失っている」と協議の難しさを指摘する中国政府関係者の見方を伝えている。