自民党の「ルール形成戦略議員連盟」が、中国発の携帯端末向けアプリの利用制限を近く政府に提言する。主に念頭に置くのは、中国企業が手掛けた動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」である。
日本の個人情報が中国に漏洩(ろうえい)する恐れがあるというのが理由だ。先にインドがサイバー空間の安全確保のためとして使用を禁じ、米国のポンペオ国務長官も使用禁止を検討していると表明した。これらと歩調を合わせる動きである。
日本が米国などと経済安全保障上の対中認識を一致させることは重要だ。情報漏洩に懸念があるならば、その対応策を検討するのも当然の流れといえるだろう。
それにはまず、アプリ利用で具体的にどんな事態が起こり得るかを徹底的に調べた上で、これを国民に丁寧に説明し、周知を図らなくてはならない。ティックトックは若い世代中心に幅広く浸透している。政府・与党はデジタル文化への影響も踏まえつつ規制の是非やありようを議論すべきだ。
現時点でティックトックなどの情報漏洩が問題になっているわけではない。それでも中国のアプリが警戒されるのは中国共産党政権に悪用されかねないためだ。
中国はあらゆるデータを自国内で囲い込むデジタル保護主義を強めており、これが覇権追求や極端な監視社会を支えている。企業側が適切にデータを管理しても、中国には国家情報法があり、国家の情報活動への協力が義務付けられていることも想起すべきだ。
自民党議連の会長、甘利明税制調査会長は「想定していない形で個人情報、機微情報が漏れることがないようにシミュレーションをしていかなければならない」と語った。妥当な認識である。政府や重要インフラなどに関わる人に、こうしたアプリの使用を無制限に認めていいのかなども今後の論点になろう。
経済安全保障分野では、第5世代(5G)移動通信システムで中国の華為技術(ファーウェイ)の排除に動く米国主導の国際潮流がある。社会を支える基幹インフラの5Gに対し、ティックトックなどは個々のユーザー判断で利用される趣味や娯楽のアプリだ。それでもこうしたアプリが際限なく広がれば、そこを足場にデジタル世界での中国の影響力が増大するリスクに備えなくてはならない。