生鮮市場アキダイの社長、秋葉弘道氏(56歳)は、野菜を売ることに喜びを見出し、その情熱で青果業界に飛び込みました。かつてアルバイト時代には「10年にひとりの逸材」と称され、満を持して開業した八百屋では、客足が遠のけばバスに向かって「大根10円」のフリップを掲げるなど、泥臭い努力を惜しみませんでした。その結果、今や多くのマスコミがコメントを求めて列をなす有名店へと成長。野菜のことならこの男に聞け、とまで言われる存在になっています。
アキダイは1992年、当時23歳だった秋葉氏が始めた八百屋をルーツとするスーパーマーケットです。葉物野菜の高騰や米不足など、青果物に関するニュースが報じられる際には、テレビクルーが連日アキダイに詰めかけ、秋葉社長のコメントが欠かせないものとなっています。特に最近の異常気象や米不足の報道では、テレビで秋葉氏の姿を見ない日はないと言っても過言ではありません。
「八百屋の常識を覆す」アキダイの鮮度と価格戦略
アキダイはメディアでの露出だけでなく、その品物の質の高さでも地域では指折りの繁盛店として知られています。本店は西武新宿線の武蔵関駅から徒歩5分、JR吉祥寺駅からはバスで20分ほどの住宅街の真ん中に位置し、周囲に商店が少ないにも関わらず、自転車や徒歩、バスで次々とお客さんが訪れます。その数は1日に1500~2000人にものぼるといいます。
アキダイ練馬関町本店に並ぶ新鮮な野菜と賑わう客層。物価高騰が続く中で、家計に優しい価格設定と高品質な青果で地域住民から厚い支持を得ている様子を示す。
近隣の上石神井駅前で「旬創酒場 べっぴん」を経営する常連客の榎本大介氏とかすみ夫妻は、「野菜は特に新鮮で、他ではあまり見かけない旬の野菜が置いてある。秋葉さんが直接情報を教えてくれるのも良い。そして何より値段も安いので助かっています」と口を揃えます。大介氏は17~18年前、居酒屋に勤めていた頃からアキダイの得意客で、独立して店を開く際には秋葉氏に相談に乗ってもらったこともあるそうです。
ニュースに不可欠な「青果界の顔」としての役割
店頭での呼び込みと顧客対応を続ける秋葉氏の声が、昼過ぎから聞こえなくなるのは日常茶飯事です。フジテレビ、テレビ朝日、読売テレビなど、午後の情報番組の撮影クルーが、秋葉氏へのインタビューを始めるからです。「この猛暑が野菜に与える影響は?」「逆に猛暑で美味しくなった野菜は?」など、ぶっつけ本番で投げかけられる質問に対し、秋葉氏は店内の商品を見せながら的確に答えていきます。例えば、今年の6月の猛暑は、安価だったブロッコリーの価格を高騰させ、旬のサクランボも異例の高値となりました。一方で、葉物野菜は今後の猛暑を予測して大量に出回ったため、一時的な高値が嘘のように下落。ナスは猛暑によってかえって美味しくなるといった具体的な情報を提供しています。
「野菜は一番安い時が一番美味しい。今のうちにたくさん食べておいてくださいね」と語る秋葉氏は、店にいるだけで年間300本以上の情報番組に出演する、青果業界きっての人気コメンテーターです。彼を支えるのは「困っている人の力になって喜んでもらうことが嬉しい」というサービス精神。「お客さんに喜んでもらうのはもちろん、取材に来てくれた皆さんにも、来てよかったと思ってもらいたい」という思いが、彼のメディア対応の原動力となっています。
1999年の「ダイオキシン騒動」がコメンテーターの原点
秋葉氏がコメンテーターとしてデビューしたのは、本人の記憶によると1999年に遡ります。所沢産のホウレンソウからダイオキシンが検出されたという誤った情報がテレビで広まり、風評被害によって所沢産ホウレンソウが1束10円まで下落してしまった時のことです。「まだアキダイなんて誰も知らない時代だったけど、所沢の市場でコメントを求められて答えた記憶がある。生産者を守って、みたいなことだったんじゃないかな」と、当時の心境を振り返っています。この経験が、彼がメディアを通じて情報発信する現在の活動の原点となりました。