前橋市富士見町皆沢のホテルで9月、経営者の堀越つる子さん(当時71歳)が刺殺された事件。群馬県警は5日、関与をほのめかしていたベトナム国籍で住所不定、無職レ・チュオン・ズオン容疑者(30)を強盗殺人と建造物侵入の疑いで逮捕した。堀越さんが倒れていた近くの部屋から、ズオン容疑者のDNA型と一致する試料が検出されていたことが、捜査関係者への取材でわかった。
発表によると、ズオン容疑者は9月10日午前9時40~50分頃、ホテルの中庭で堀越さんの背中の左肩付近を刃物で刺して殺害、事務所に侵入して現金約5万5000円を奪った疑い。調べに対し「話したくない」と認否を留保している。凶器は見つかっていない。
ズオン容疑者は、堀越さんの殺害をほのめかし、15日に東京都品川区の交番に出頭。事件1週間前にタクシーの無賃乗車をしたとして、詐欺の疑いで県警に逮捕されていた。
捜査関係者によると、ズオン容疑者は事件当日の午前8時頃にホテルへ入室。同じ時間帯にホテル周辺の防犯カメラには、ズオン容疑者とみられる人物が映っていた。代金が支払われていなかった部屋から検出され、ズオン容疑者のDNA型と一致した試料は、ズオン容疑者の毛髪類とみられている。
ズオン容疑者は2018年10月に来日。奈良県の金属加工会社で技能実習生として働いていたが姿を消し、今年6月頃にベトナム人のコミュニティーを頼って来県したとみられる。
◇
「容疑者の逮捕は一区切りですが、母はもう帰ってきません……」。犠牲となった堀越つる子さんの長女(38)は、複雑な表情を見せた。
長女によると、堀越さんは6年ほど前に子宮頸(けい)がんが進行していることが分かり、その後、肺にも転移。医師から「余命1年」とも言われたが、家族のサポートを受けながら抗がん剤治療などを続けて回復していた。ようやく日常生活が戻ってきた中での悲劇に、悔しさばかりが募る。
ホテルは年内で閉める予定だったといい、堀越さんの手帳には「あしかがフラワーパーク」や「屋久島」など訪れたい場所が書き込まれていたという。
長女は「一緒にいろいろなところへ行きたかった」と唇をかむ。容疑者に対しては「なぜ、母が殺されなければいけなかったのか。しっかり理由を話してほしい」と訴える。
堀越さんの葬儀は6日、前橋市内で営まれる。