75歳以上の後期高齢者の医療機関での医療費の窓口負担をめぐり、現行原則1割から「一定所得以上は2割」に引き上げるとする政府方針をめぐり、日本医師会(日医)と経団連など経済界との間で攻防が激化している。日医が「『限定的に』しか認められない」と政府を牽制(けんせい)するのに対し、経済界は「原則2割」を主張。厚生労働省は近く、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の医療保険部会で複数案を提示する見通しだ。(坂井広志)
日本医師会(日医)の中川俊男会長は11日の記者会見で「新型コロナで特に高齢者は受診を控えている。今でも受診を控えているのに、自己負担を倍にするという感覚は到底理解し得ない」と厳しく指摘した。
その上で2割負担の線引きについて、原則65歳以上が対象の介護保険制度で、現役並みの収入で3割負担となる人の、単身世帯の年金を含む年収基準とそろえ「340万円くらいが現実的な着地点ではないか」と述べた。現在75歳以上の窓口負担は単身で年金を含む年収383万円以上の現役並み所得者が3割で、その他は1割となっている。
日医は10月28日に「後期高齢者は1人当たり医療費が高いので、年収に対する患者一部負担の割合はすでに十分に高い。財務省が言うように『可能な限り広範囲』ではなく、『限定的に』しか認められない」とする見解を表明。受診控えに拍車がかかり、高齢者の健康に悪影響を及ぼしかねないことを懸念している。
これに対し、企業の健康保険組合で組織する健康保険組合連合会(健保連)や経団連、日本商工会議所、連合などは今月4日、田村憲久厚労相に「低所得者に配慮しつつ早急に原則2割とする方向で見直すべきである」とする意見書を提出した。
令和4年から団塊の世代が後期高齢者になり始めることに伴い、医療給付費の急増が予想され、医療保険制度の支え手である現役世代の人口の急減も見込まれるため、制度が危機的状況に陥りかねないという問題意識がある。意見書では「現役世代や企業の保険料負担はすでに限界に達している」と強調している。
健保連は「住民税非課税世帯以外」、つまり住民税を払っている人はすべて2割に引き上げるべきだと主張している。この考え方だと、単身世帯で年収約155万円以上が対象となり、2割負担の人は後期高齢者の約半分を占める計算になるという。
厚労省はこれまで、現役並みを含む所得上位15%は、単身で年金だけの年収が約270万円のラインだと明らかにしており、「155万円~270万円」の範囲内で複数案を提示することが予想される。ただ、衆院解散・総選挙が近づけば、与党内に反発が強まるのは確実。関係団体の利害が交錯する中、調整は難航しそうだ。