「楠木正成、正行を大河ドラマに」 誘致活動に異論 反対する市民の危機感


「楠木正成、正行を大河ドラマに」 誘致活動に異論 反対する市民の危機感

 鎌倉時代末期~南北朝時代の武将、楠木正成、正行(まさつら)親子をテーマとしたNHK大河ドラマの実現を目指して、全国13都府県の62自治体が「『楠公さん』大河ドラマ誘致協議会」を結成し、誘致活動を展開している。一方、この動きに異を唱える市民もいる。親子が戦前戦中、自らの命を捨てて天皇に尽くした忠義のシンボルとされた歴史があるからだ。「楠公復活」に強い危機感を訴えている。【亀田早苗】

 協議会は2018年に結成。大河ドラマ制作を求める署名集めに取り組み、20年3月現在で3万9329人分を集めた。楠公ゆかりの地の広域観光や経済振興が目的だといい、大阪府内からは全国最多の36市町村が参加。正成の生誕地とされる千早赤阪村や、少年期を過ごしたという河内長野市など南河内が一つの核だ。

 ◇戦意高揚に利用された「桜井の別れ」

 もう一つの、親子物語の核となるのは島本町。「太平記」で有名な「桜井の別れ」の舞台だ。1336年、後醍醐天皇に離反した足利尊氏の大軍を迎え撃つべく、正成は死を覚悟して兵庫に向かう。途中、西国街道の桜井駅で11歳の正行を諭して引き返させたとされる。歴史的根拠は薄いものの、島本町内に「桜井駅址」を1921年、「楠木正成伝説地」として国が史跡に指定。道路や公園が整備され、戦争中は戦意高揚のために「楠公精神」の聖地とされた。

 同町の住民らは、「楠木正成・正行を主人公とするNHK大河ドラマ制作を考える会」を結成。9月には、「戦前の教育を検証することなく『楠公さん』大河ドラマ誘致を行う協議会に疑問」と、ドラマ誘致に反対する要望書をNHKに提出した。NHKからは2022年放送予定以降はまだ決まっていないと回答があったという。

 10月には町内のゆかりの地をめぐる学習会が開かれ、関西大・立命館大非常勤講師の塚崎昌之さん(近現代史)が幕末、明治以降の時代背景を解説した。

 明治政府は急速な近代化を進める一方、天皇を神格化し、楠木親子を忠臣に祭り上げた。日清・日露戦争でナショナリズムが高揚し、記念碑で観光地化して活性化を狙う地域の動きも加わったと塚崎さんは指摘する。

 史跡公園には、乃木希典と東郷平八郎という陸・海の「軍神」が揮毫(きごう)した石碑が残り、往時をしのばせる。楠木親子が向かい合うセメント像もある。台座には、近衛文麿元首相の手による「滅私奉公」の文字。親子像には「忠孝一致」「忠孝両全」の言葉が一般的だ。近くにあった青葉公園の「大楠公馬上像」の台座だったが、戦時中に像が金属供出され、戦後に青葉公園がなくなって移された。

 島本国民学校にあった「楠公父子別れの銅像」も供出。「楠公父子は出陣された。僕たちも続きましょう」と貼り紙がされ、翌日には高等科の生徒16人が少年兵に志願したという。塚崎さんは「37年の日中全面戦争以降は、皇国臣民教育のため、子供の正行が重視された」と説明した。

 協議会事務局の河内長野市によると、分担金はなく各自治体がそれぞれにPR活動を行っているといい、同市は今年度100万円を計上した。事務局は「忠臣のイメージは後世につくられたもの。本来の姿ではない」としている。



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