グリコ・森永事件の犯人像として公開されたキツネ目の男の似顔絵
警察をからかう挑戦状、毒入り菓子のばらまき、不気味な「キツネ目の男」-。これほど社会を揺るがした未解決事件はないだろう。劇場型犯罪と言われた「グリコ・森永事件」。犯人は現金強奪の最後の舞台に滋賀を選んだ。警察の極秘捜査が名神高速道路で進行中のまさにその時、高速道と交差する栗東市の一般道で、事情を知らないパトカーが犯人の一人が乗る不審車を発見。逃走する車を追跡したが、逃げられてしまった。犯人逮捕の最大のチャンスを逃してしまった県警は強い批判を浴びた。
【写真】犯人が乗り捨てた車
「滋賀は何してるんだ」。県警は情報漏れを恐れてハウス事件の専従要員を85人に絞ったことが裏目に出た。盗難車を追跡したパトカーの隊員は極秘捜査を知らされていなかった。元捜査1課の今江明弘さん(76)は「刑事部長が警察庁の役人からぼろかすに言われたと聞いた。部長も課長も悲痛な顔をしていた」と振り返る。
屈辱に耐える日々。8カ月後、勇退する山本昌二本部長が異動発令の日に公舎で焼身自殺した。責任を取ったとみられる。間髪を入れず犯人は声明文を出し、「くいもんの 会社 いびるの もお やめや」と終結宣言を出した。1985年8月12日のその日、日航ジャンボ機が墜落した。犯人は姿を消し、社会の関心は移り変わった。
犯人が乗り捨てた盗難車から見つかった布製バック、カークリーナー、帽子、無線機
県警は盗難車にあった遺留品の捜査に邁(まい)進した。バッグ、カークリーナー、軍手…。今江さんはバッグの捜査で全国を駆け回った。「朝4時に起きて帰宅は午前0時。参りました」。商品の購入者特定が難しくなっていった時代。各警察が協力する広域捜査の必要性も痛感した。
クリーナーなどから採取した複数の微物の中に、県内の特定メーカーしか製造していない特殊な電子部品のかけらがあった。これらの微物が付着する場所はどこか。県警が出入り業者などを調べた。
あるグループが浮かび上がった。周辺には「キツネ目」に似た男も。しかし、以前にキツネ目の男を目撃した大阪府警の捜査員は「違う」と否定した。各府県警の内偵捜査で、怪しい集団が浮上しては「白」「灰色」の判定が続く。暴力団、元左翼、北朝鮮工作員も。机上の人物相関図は拡散していった。