「台湾有事」の悪夢が現実となるのか―。台湾国防部は1日、中国本土から数キロの距離にある金門島周辺の上空で、「正体不明の無人機(ドローン)」を撃墜したと明らかにした。所属は不明だが、中国側から飛来したとみられる。ナンシー・ペロシ米下院議長が8月初旬に訪台後、中国軍は台湾海峡付近で大規模な軍事演習を強行し、中国軍機による中間線越えは400機を超えた。金門島周辺にはドローンが頻繁に飛行している。ドローンは、ウクライナに侵攻したロシア軍に甚大な打撃を与えるなど、現代戦では無視できない存在といえる。台湾海峡の緊張が高まっている。
「挑発行為に対し、強力な対抗措置をとる」
台湾西方の澎湖諸島にある空軍部隊を視察した台湾の蔡英文総統は8月30日、強度を増す中国軍の威迫についてこう語り、厳格に対応する姿勢を示していた。今回のドローン撃墜は、こうした中で実行された。
台湾国防部などによると、1日正午(日本時間午後1時)すぎ、台湾軍が金門島近くの小島「獅嶼」付近の制限水域上空でドローンを発見。駐留部隊が警告したが反応がなく、銃撃して撃墜した。ドローンの残骸は海に落下したという。
台湾をめぐっては8月2日、ペロシ氏が訪台した後も、米国議員団が予告なしに台湾を訪れたり、ジョー・バイデン米政権が約11億ドル(約1500億円)の武器売却を準備するなど、米国と台湾で「自由」と「民主」「人権」「法の支配」を守る姿勢を示していた。
一方、台湾を「核心的利益」に位置付ける習近平国家主席率いる中国は強烈に反発した。ペロシ氏の訪台直後から、台湾を取り囲むように大規模軍事演習を展開し、日米台の連携を揺さぶるためか、日本の排他的経済水域(EEZ)に弾道ミサイル5発を撃ち込む暴挙にも出ていた。
こうしたなか、中台最前線の離島などに飛行する、不気味なドローンの存在もクローズアップされていた。
中国軍の大規模演習に前後して、金門島付近の上空では、ドローンが繰り返し飛行。台湾軍の基地の様子など、安全保障上の機微に触れるような映像が、中国のインターネットで拡散する事例もあった。
台湾軍は当初、照明弾を発射するなどして警告を行ったが、効果はなかった。蔡総統が「強力な対抗措置」を表明した30日には、金門島付近の上空を旋回する中国のドローンに対し、台湾軍が実弾警告射撃を初めて行った。
今回、撃墜したドローンについて、台湾の国防部は「国籍不明の撮影用の民用無人機」と説明している。撮影用の民用に対して、撃墜は過剰な反応とする指摘もあるが、ドローンの脅威は軽視できるものではない。
ロシアの侵攻を受けたウクライナでは、ドローンを使った戦術が威力を発揮している。戦力で劣るウクライナは、ミサイルや爆弾を搭載したドローンによる攻撃で、ロシアの戦車部隊などに甚大なダメージを与えた。
ドローンは、機体の大きさや搭載する装備で多種多様な運用が可能だ。戦車や兵士への直接攻撃のほか、敵陣地を精密に偵察して有利に部隊を展開するなど、戦場で欠かせないツールとして注目されている。
ミサイルや爆薬以外にも、化学兵器や生物兵器を載せて敵の周辺に散布するケースも考えられる。さまざまなリスクが想定されるだけに、台湾も不審なドローンの飛行には過敏にならざるを得ないのだ。
米CNN(日本語版)は1日、中国外務省の「その状況については認識していない」「(台湾が)緊張をあおろうとしても無意味だ」というコメントを報じている。
今回の撃墜は、台湾海峡にどのような影響を及ぼすのか。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「台湾周辺には、中国からドローンが相当の頻度で飛来している。重要施設が上空から撮影されるなど、台湾も看過できなくなったのだろう」といい、続けた。
「今回、撃墜されたドローンは民間の小型のものとされ、直ちに紛争になる可能性は低い。ただ、今後もドローンの飛行は続き、台湾による撃墜も増えるだろう。中国が台湾侵攻の『口実』づくりを狙っている恐れもあり、撃墜が有事の火種になるリスクがある。中国は民間ドローンの保有数が世界一だが、人民解放軍も大型の偵察型、自爆型のドローンを保有している。日本の南西諸島周辺にも大型偵察ドローンが飛来しており、長距離飛行の性能もある。動向を警戒する必要がある」