ウクライナ国旗
【キーウ(キエフ)=黒川信雄】2月のロシア軍の侵略開始後に占領されたウクライナ南部のヘルソン、ザポロジエ両州では、ロシアによる一方的な併合宣言から30日で1カ月がたち、住民生活の深刻な混乱が伝えられている。支配地域をめぐる両国軍の戦いが激しさを増すなか、現地住民が、同胞であるはずのウクライナ軍に対する戦闘参加を余儀なくされる事態も起きている。
【写真】へルソン市から避難してドニエプル川東岸の町に到着した市民
「ヘルソン市に残った市民らは(露側の)軍務への参加だけでなく、労働の提供も求められる可能性もある。占領者は、人道危機を引き起こそうとしている」
ヘルソン州幹部のセルヒー・フラン氏は24日、オンライン会見で、州都ヘルソン市に残された住民をめぐる厳しい状況を指摘した。
親露派勢力は市の防衛に向け、民兵組織「領土防衛隊」を編成すると発表したが、フラン氏は「ウクライナ国民を(ウクライナ軍と戦うために)ロシアが直接的に動員する取り組みであり、極めて深刻な事態だ」と警告した。
フラン氏はまた、市から住民らが脱出しようとしても、その大半は露軍の占領下にある「南部クリミア半島に行くことを強要される」と指摘。同州のドニエプル川東岸に避難した場合でも、西側からのウクライナ軍の攻撃に対する「人間の盾として利用される」と主張した。
露軍が占領していたヘルソン州西部では、露軍の撤退にともない店舗や住宅が略奪されている実態も報じられている。通信アプリ上では露軍のトラックが大量の家具を運び出している様子の写真も拡散している。
南部ザポロジエ州も厳しい状況にある。同州には欧州最大級の規模を持つザポロジエ原子力発電所があるが、露軍の占領下にあり、26日にオンライン会見した同州の軍幹部は「州内の電力が深刻な不足に陥っている」と指摘した。
同州メリトポリ市のフェドロフ市長は27日、通信アプリを通じ、州の露軍支配地域で携帯電話の検閲が同日から始まったと明かした。通信相手やインターネットの閲覧履歴などを軍が調べることが可能になったという。