ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)の雑踏事故で、20歳代の妹を亡くした男性は、「警察が現場をきちんと警備していたら、大惨事にならなかったはずだ」と悔やんだ。
事故は、複合的な要因によって被害が拡大したとみられる。
(写真:読売新聞)
カフェやバーが立ち並び、外国人にも人気の梨泰院では毎年、ハロウィーンのイベントが開かれるのが恒例だ。新型コロナの規制が緩和された今年は、10万人規模の人出になることが予想された。
だが、主催者がいる行事ではなく、仮装姿の若者らが各店舗でのパーティーや街歩きを楽しむ自主的なイベントで、政府の安全管理マニュアルでは、行政当局などへの警備計画の事前提出は義務づけられない。韓悳洙(ハンドクス)首相は記者会見で「制度的な不備」があったと認めた。
批判のやり玉に挙がっているのが警察だ。「圧死しそうだ」との通報が事故の約4時間前から相次いだが、十分な対応を取らなかった。韓国メディアによると、ソウル警察庁で通報対応の責任者だった女性幹部は、事故が起きた午後10時15分頃は席を外しており、戻ったのは事故発生から約1時間半後だった疑惑がある。
現場の坂道近くで違法に増築されたテラス席が道幅を狭めている所があり、事故の一因とみる向きもある。
尹大統領、国民に謝罪
4日、雑踏事故の犠牲者を悼み、献花する韓国の尹大統領=聯合ロイター
尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は4日、ソウル市内の寺で行われた犠牲者の追悼法要に出席し、「国民の生命と安全に責任を負う大統領として、あまりにも悲痛で申し訳ない気持ちだ」と述べ、初めて公開の場で国民向けに謝罪の言葉を口にした。
政権が強調するのは、情報公開と徹底した真相究明だ。大統領府は、尹氏が事故発生の1時間以内に報告を受け、迅速な救命・救助を指示したことなど、詳細な経緯を公開した。
尹氏の念頭にあるのは、2014年に修学旅行の高校生ら約300人が死亡した旅客船セウォル号の沈没事故だ。当時の海洋警察による救助活動の遅れや、朴槿恵(パククネ)大統領が適切な指示を出さなかったことが厳しく批判され、朴氏の求心力は急激に低下。弾劾(だんがい)・罷免(ひめん)の素地を作った。支持率が低迷する尹氏は、政権批判への飛び火を回避しようと神経をとがらせている。