日本政府、防衛費の大幅拡大を閣議決定 中国の脅威を理由に
日本政府は16日、今後5年間で防衛費を現行計画から1.6倍の43兆円に拡大すると閣議決定した。中国や北朝鮮の脅威を理由としている。
岸田政権は、安全保障環境が「戦後最も厳しい」とする安保関連3文書を閣議決定。相手の領域内を直接攻撃する能力の保有も明記した。装備の取得や施設の整備のため新たに契約する金額は、現行の2.5倍の約43兆5000億円となる。
第2次世界大戦を経て平和憲法を制定し、専守防衛に徹するとして戦後日本の防衛政策にとって、かつてないほど劇的な大転換となる。
新しい防衛計画にもとづき、日本攻撃を受けた場合には敵のミサイル発射拠点などを攻撃できるアメリカ製のミサイルを購入する。サイバー戦の防衛力も拡大する。
岸田文雄首相は16日夜に首相官邸で記者会見し、2027年までに「抜本的に強化された防衛力とそれを補完する取り組みを合わせて」、GDP(国内総生産)比2%の防衛予算を確保すると述べた。
首相は、「国際社会は、協調と分断、協力と対立が複雑に絡み合う時代に入ってきて」おり、その「分断が最も激しく現れたのがロシアによるウクライナ侵略という暴挙」だったという認識を示した上で、「残念ながら、我が国の周辺国、地域においても、核・ミサイル能力の強化、あるいは急激な軍備増強、力による一方的な現状変更の試みなどの動きが一層顕著になってる」と述べた。
そうした「歴史の転換期を前にして」、「今後5年間で緊急的に防衛力を抜本的に強化するため、43兆円の防衛力整備計画を実施する」と、首相は言明した。
閣議決定された安保関連3文書のひとつ、国家安全保障戦略(NSS)は中国について、「現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向等は、我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり、わが国の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦」と書いている。
国家安全保障戦略はさらに「中国は、台湾について平和的統一の方針は堅持しつつも、武力行使の可能性を否定していない」と指摘した。
日本のこうした防衛政策転換に先立ち、中国外交部の報道官は14日の定例記者会見で、中国は日本に対し、両国関係を協力的なパートナーシップとするよう促していた。日本政府による防衛費拡大決定を受け、在東京の中国大使館は、日本政府が中国の軍事活動について、事実と異なる主張をしていると批判した。
日本では、北朝鮮のミサイル発射能力についても懸念が高まっている。北朝鮮は過去3カ月で50発以上のミサイルを発射しており、10月には日本上空を通過する弾道ミサイルを5年ぶりに発射した。
さらに、国家安全保障戦略はロシアについて、「ロシアによるウクライナ侵略により、国際秩序を形作るルールの根幹がいとも簡単に破られた。同様の深刻な事態が、将来、インド太平洋地域、とりわけ東アジアにおいて発生する可能性は排除されない」、「ロシアによるウクライナ侵略は、武力の行使を禁ずる国際法の深刻な違反であり、国際秩序の根幹を揺るがすものである」と言及している。
2013年の国家安全保障戦略は、中国には「戦略的互恵関係」の構築に向けて取り組むよう促すとしていた。ロシアについては、「ロシアとの間では安全保障及びエネルギー分野を始めとするあらゆる分野で協力を進め、日露関係を全体として高める」と書いていた。
戦後日本の憲法は、正式な軍隊は保持しないと定め、交戦権を認めない。ただし、自衛権の行使は認められると解釈されている。それに加えて政府は2015年に安倍晋三首相(当時)のもとで、集団的自衛権の行使などを可能にする安全保障の関連法案を閣議決定した。
複数の世論調査から、日本では何らかの形の軍事力拡大を支持する人が大多数との結果が出ている。
岸田首相が掲げる「GDP比2%」という防衛支出の規模は、日本が連携する西側諸国が加盟する北大西洋条約機構(NATO)が2006年に定めた長期目標と同水準。
多くのNATO加盟国はまだこれに達していないものの、ドイツ政府は今年2月末、ロシアのウクライナ侵攻直後に、国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げると確約した。ドイツにとってこれは戦後外交政策の大きな転換点だった。
イギリスでは6月、当時のボリス・ジョンソン政権が2020年代の終わりまでに国防費を国内総生産(GDP)比2.5%にまで拡大する方針を示した。リズ・トラス前首相は、国防費を2030年までにGDP比3%に引き上げると公約していた。
(英語記事 Japan defence: China threat prompts plan to double military spending)
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