【北京=三塚聖平】新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に食い止める「ゼロコロナ」政策を事実上撤回した中国で、感染拡大を受けて死者が急増しているもようだ。政府の公式統計で新たな死者数は「ゼロ」が続いているのに対し、葬儀場には予約が殺到し、新型コロナに感染した著名人の死も報じられている。習近平政権が見切り発車で緩和を急ぐ中、死者が100万人近くに上るという予測も出ている。
香港紙の明報(電子版)は18日、感染拡大が深刻な北京市内で新型コロナ関連の死者が急増し、病院の遺体安置室が満杯になっていると報じた。葬儀場は火葬の順番待ちで、新たな予約を断っている状態という。
中国メディアによると、12日には新型コロナに感染した元プロサッカー選手の王若吉さんが亡くなった。王さんは37歳で、感染で持病の糖尿病が悪化した。また、中国共産党機関紙、人民日報の74歳の元記者ら、メディア関係者の感染後の死も伝えられている。
中国政府は7日に防疫措置の大幅緩和を発表し、それにより北京など各地で感染が急拡大した。中国は、予防効果が高いとされる海外製ワクチンを使っておらず、重症化リスクが高い高齢者の接種率も十分に上がっていないことも、死者の急増につながっているとみられる。
しかし、中国政府が毎日発表している統計で死者数は、対策緩和後も「ゼロ」が連日続く。14日から「正確に実際の数を把握できない」と無症状の感染者数の公表を止めており、急増する感染者数や死者数の把握を放棄している形だ。
少し前まで感染によるリスクを強調していた中国当局は現在、「新型コロナを恐れる必要はない」との宣伝を展開。中国で感染症研究の権威とされる鍾南山(しょう・なんざん)氏は15日の講演で、オミクロン株の致死率が低いなどとして「新型コロナ風邪」と呼ぶべきだと主張した。
香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(電子版)は15日、専門家の予測に基づく試算として、ワクチンの追加接種などを行わずに防疫措置の緩和を進めれば中国で100万人近くが死亡する可能性があると伝えた。
政策転換があまりに突然だったため、薬や抗原検査キットも十分に備えていない市民も多い。