
ウクライナのゼレンスキー大統領(桐原正道撮影)
ウクライナがロシア軍への「反攻作戦」を開始した。東部ドンバス地域や南部クリミア半島の奪還を狙う。一方、東部ドネツク州の激戦地バフムトでは、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が撤退を始めた。窮地のロシアはベラルーシへの戦術核移転で対抗するが、プーチン大統領の焦りがうかがえる。
【写真】ウクライナ軍の攻撃で破壊されたとするロシア軍陣地
ウクライナのポドリャク大統領府長官顧問は24日放映のイタリアのテレビ番組で、反転攻勢について「約1500キロの戦線を巡る激しい戦いだが、既に行動を始めた」と述べ、数日前から作戦行動に入っていると指摘した。
英国が供与した巡航ミサイル「ストームシャドー」やドイツ製戦車「レオパルト2」などの兵器について、ロシアが併合したクリミア半島や実効支配するドンバス地域に使用すると明言した。
ロシアが制圧を表明したバフムトでは異変が生じている。ワグネルの創設者プリゴジン氏は25日、同地から撤退を始めたと表明した。全陣地をロシア軍に引き継いで6月1日までに完全撤退し、休養し再編した上で新たな任務に就くという。米シンクタンクの戦争研究所は「ワグネルの代わりに訓練が不十分なロシア軍部隊が戦線に配置される可能性が高い」と分析しており、軍が弱体化する可能性が高い。
こうしたなか、ロシアの戦術核兵器配備受け入れで正式合意したベラルーシのルカシェンコ大統領は25日、自国の準備を整え、「移転が始まった」と明らかにした。戦術核が既に領内にあるのかとの質問には「可能性はある」と答え、明言を避けた。
戦術核配備の狙いについて、元陸上自衛隊中部方面総監の山下裕貴氏は「ベラルーシがウクライナやNATO(北大西洋条約機構)から攻撃を受けないよう抑止力を強める意味合いがあるだろう。ロシア側がルカシェンコ体制を支えようとする思惑もみえ、政治的メッセージの意味合いが強い」と指摘する。
プーチン大統領は3月、国家統合を進めるベラルーシへの戦術核配備を決めたと表明。7月1日までに保管施設が完成すると述べていた。核兵器使用可能な弾道ミサイルシステム「イスカンデルM」をベラルーシに供与し、空軍機の改造も支援した。
今後の展開について山下氏は「ロシア軍はウクライナの前線で窮しており、プーチン氏はNATOの正面に核を配備し、脅すしか選択肢がなく、焦りもうかがえる。核を拡散することで両国に対する欧米の経済制裁がより強まることも予想される」と語った。