[ad_1]
藤井聡太竜王・名人に聞く(1) 羽生先生がくれたもの
藤井竜王・名人の回答からにじみ出た言外のニュアンスからインタビュアーが感じた藤井像に迫ろうという連載の第1回です
史上最年少名人・七冠という偉業を達成し、無人の荒野を進むかのように歴史を塗り替え続けている藤井聡太竜王・名人。日本将棋連盟が刊行する『令和5年版 将棋年鑑 2023年』の巻頭特集ロングインタビューの取材に際して、藤井竜王・名人の回答からにじみ出た言外のニュアンスからインタビュアーが感じた藤井像に迫ろうというのがこの記事のねらいです。インタビュアーの主観が大いに混じっていますが、どうかお許しください。
まずはインタビューのやり取りをご覧ください。
生まれ変わるとしたら
――生まれ変わるとしたら何になりたいですか?
藤井「(少し考えて)うーん。人間になりたいです」
「生まれ変わるとしたら何になりたいですか?」というのは、「人間以外に生まれ変わるとしたら」ということを前提にしている質問です。
だから、よくある回答としては「鳥になりたい」とか「ハムスターになりたい」とか「貝になりたい」みたいなものになります。そういう生き物の中で藤井先生が何を選ぶのかに興味があったわけですが・・・
まさかの「人間になりたい」。
続いて
藤井「そうですね。自然界は競争が厳しいので生き残る自信がないです(笑)」
・・・いや、現実的!!
この質問って「鳥になって空を飛んでみたい」とか「ナマケモノになってのんびり暮らしたい」とか、そういう想像の遊びみたいなものですけど、藤井先生はリアリストでした。
この話の続きはこうです。
――確かに。人間以外だと生きていくのが大変そうです。生まれてすぐに命の危険にさらされる、ということもありますし。
藤井「可能性としては少なくないですね」
「可能性が高い」じゃなくて、「可能性としては少なくない」。この2重否定がいかにも藤井調です。
ネクタイ
次のテーマは「ネクタイ」です。
――普段のネクタイ選びはご自分でされていますか?
藤井「いや、ネクタイは基本的に母に選んでもらっています。いただいたものが多いです」
この回答で気になるのは後の方の「いただいたものが多いです」というところです。インタビュー中もあれ?っと思ったんですけど、この質問ではネクタイをどうやって入手しているかというのは聞いていないんですよね。聞かれていないことに藤井先生が答えたときは、何かその意味があるはずです。
おそらくですが、これは藤井先生の強がりというか、照れ隠しのようなものだったのではないかと推察します。
つまり、お母さんに選んでもらってるけど、買うところはお母さんに頼っていませんよと。もらったものをお母さんが選んでいるだけですよと。
そんな感じじゃないかと思います。この藤井先生の気持ちは話の続きからも推量できます。
――いくつか候補を出されてその中から選ぶというより、一択で渡される形ですか?
藤井「そうですね。ただ、一択ですけど自分が差し替えを要求することもできるので(笑)」
選んでもらってるけど、チェンジする権利はあるんだぞと。
さらに話は続きます。
――なるほど(笑)。変更する権利はあるんですね。
藤井「はい。権利としては。でも基本的には行使しないで選んでもらったものをつけています」
いや結局つけるんかい(笑)
お母さんに選んでもらってる
→でも、買ってもらってはないしチェンジもできる
→でも、結局選んでもらったものをつけてる
最後に負けを認めちゃうところまで含めて、一連の流れがかわいらしいです。
おいてかないで
将棋年鑑のインタビューでは毎年、藤井先生と担当編集者の會場によるディープすぎる詰将棋トークに全くついていけない自分がおり、いつもハンカチを噛みしめております。そして今回も例のように詰将棋劇場が繰り広げられたのでした。
――いままでに一番悩んだ詰将棋はなんでしょうか。
藤井「悩んだ詰将棋は最終的に解いていないので(笑)。結構諦めが早いタイプなので解けた中で悩んだのは浮かばないんですけど、最近ですと岡村孝雄さんの都煙の『アツクナレ』」
――あー、はい。
藤井「あれを解いてみようと思ったんですけど挫折しました(笑)」
――なるほど。『アツクナレ』はそうですね。最近の大学で難解作でいうとあの中山芳樹さん作の・・・。
藤井「あー、はい」
――あれは話題だったかと思うんですけど、どうでしたか?
藤井「いや、初形を見て解けないと思ったので」
――なるほど(笑)。あの作品の場合は初形もそうですし、作者名もありますかね。
藤井「はい」
――易しいわけがないですからね。
藤井「そうですね」
いや、その「あうんの呼吸」みたいなのやめてー!(笑)
正直、何をしゃべっているか全くわからなかったですけど、中山さんという方がいつも難しい詰将棋を創るということだけはわかりました。
羽生先生がくれたもの
今回のインタビューではシンプルな質問コーナーのあとに1年のタイトル戦の振り返りをしていただきました。
夢の対決となった羽生善治九段との第72期王将戦のお話です。
私の質問はこうです。
――大先輩との番勝負で将棋の内容以外のところで学ぶこともありましたか?
これに対する藤井先生の答えは心に残るものでした。
藤井「そうですね。対局が終わった後すぐに羽生先生が気持ちを切り替えられていたのが印象的でした。インタビューの時にはもう切り替えが終わっているようでした。あと、第1局の終局後のインタビューで持ち時間が8時間あっても足りないということをおっしゃられていて、やっぱり、そういう気持ちで考えないといけないんだなというところも勉強になりました」
このとき、話されている藤井先生の表情がとても穏やかだったことを覚えています。
藤井先生の答えは大きく分けて2つです。
1、気持ちの切り替えの速さ
2、時間いっぱいまで考える姿勢
でもこれ、考えてみると、両方とも藤井先生にも当てはまることなんですよね。
藤井先生も負けた後、次の対局までには気持ちを切り替えられてますし(だから連敗しない)、時間があればあるだけ考えるというのは藤井先生の真骨頂で、師匠の杉本先生も賞賛するところです。
だからなんとなくですけど、藤井先生は羽生先生との番勝負を通じて「自分はこのまま進んでいいんだ」という気持ちになれたんじゃないかなと思うのです。
自分が心がけていること、自分が考えていることを偉大な先輩が先にやっている。
羽生先生は直接教えたわけじゃなくても、大事なことを藤井先生に伝えてくれたんだなと思って
・・・本当のところはお二人にしかわからないですけど、羽生先生が藤井先生にいい道を示してくれたことは間違いないと思うのです。
将棋情報局
[ad_2]
Source link