ナゴルノ・カラバフ地域で住民脱出、アルメニアで政府への抗議活動が本格化

アルツァフ共和国(ナゴルノ・カラバフ地域)の独立維持が困難になってきた今、アルメニア系住民の脱出が本格化しています。現地のメディアによれば、「13,550人の住民がアルメニアに入国した」と報じられていますが、脱出を試みる住民の車でラチン回廊が埋め尽くされており、最終的な人数はまだ分かっていません。

民族的・歴史的・感情的な視点から見ると、パシニャン首相は裏切り者と映るかもしれません

アルツァフ共和国(ナゴルノ・カラバフ地域)は1992年1月に独立を宣言しましたが、世界の主権国家からの承認を得ることはできず、第二次ナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンに敗北したアルメニアも、「ナゴルノ・カラバフ地域はアゼルバイジャン領の一部だ」と公言しました。そして、第三次ナゴルノ・カラバフ戦争でアゼルバイジャンの主権と統治を受け入れたことにより、アルツァフ共和国は事実上「消滅」が確定してしまいました。

この結果を受けて、アルメニアとアゼルバイジャンは10月5日に首脳会談を行う予定です。ナゴルノ・カラバフ地域のアルメニア系住民は一斉にアルメニア領への脱出を始めました。現地のメディアによれば、「26日の午前8時時点で13,550人の住民がアルメニアに入国した」と報じられていますが、脱出を試みる住民の車でラチン回廊が埋め尽くされており、最終的な人数はまだ分かっていません。

ただ、アルツァフ共和国の人口は約16万人と報告されており、「人口の大半がアルメニアに移住する可能性」があります。アルメニア系住民にとっては家や土地を捨てなければならないという悲劇ですが、第一次ナゴルノ・カラバフ戦争では70万人以上が家や土地を捨てて難民化してしまったアゼルバイジャンにとっては、(不謹慎ですが)「待望の帰還」と言えるかもしれません。

出典:Google Map 管理人作成(クリックで拡大可能)

アルメニア系住民が捨てた家をアゼルバイジャン軍兵士が漁る様子が確認されていますが、ナゴルノ・カラバフ地域の法的地位は未確定であり、主権もアゼルバイジャンに属するため、この略奪行為は誰にも罰せられない可能性もあります。

ちなみに、ステパナケルトでは「アルメニアに脱出する住民」に対して、ガソリンが無料で配布されています。しかし、この配布所であるガソリンスタンドが大爆発し、約300人が死傷する事故が発生しました。また、ラチン回廊が封鎖されていたことにより、ステパナケルトでは医薬品が不足しているため、重症者をアルメニアに移送することも困難です。そのため、現在は空輸によってアルメニア人医師や医薬品をステパナケルトに送る努力が行われています。

アルメニア国内では、第三次ナゴルノ・カラバフ戦争に対する不介入を貫いたパシニャン首相や政権に対する抗議活動が勢いを増しています。アルメニア共和国の初代首相であるマヌキャン氏は「26日から国の機能を麻痺させよう」と呼びかけており、これに応じた多くの国民が各地で道路を封鎖し交通を麻痺させ、治安当局と衝突しているようです。

現地の雰囲気や空気感を正確に把握することは難しいですが、「アルメニア人の中で第三次ナゴルノ・カラバフ戦争に対して批判的な人々がどれくらいいるのか」はわかりません。しかし、アルツァフ共和国を支持する勢力は、「アゼルバイジャン軍がステパナケルトに入り、大規模な虐殺が行われている」と不確かな情報を広めており、メディアの街頭インタビューに応じたアルメニア人は、「パシニャンはトルコに喜ばれるためにアルツァフを彼らに与えたんだ。彼はアルメニアも彼らに売るだろう」と答えており、アルメニアはアルツァフ共和国を守るために戦うべきだったと示唆しています。

出典:President.az/CC BY 4.0

国際社会がアルツァフ共和国の保護に協力する可能性はほぼありません。また、軍事的に見てもアルメニア軍にはアゼルバイジャン軍を追い払うだけの能力はありません。そのため、第三者の立場から見ると、「不介入によってアルメニアが戦争に巻き込まれないことは妥当な決断」と思えます。しかし、民族的・歴史的・感情的な視点から見ると、パシニャン首相は裏切り者と映るのでしょう。

和平協定の行方や、アルメニアとアゼルバイジャンの首脳会談の結果が注目されます。一方で、南コーカサス地域の緊張は高まっており、イラン大統領はどのような変化も容認しないと表明しています。さらに、イランとアゼルバイジャンの国境で大規模な軍事演習が行われており、焦点はザンゲズール回廊に集まっています。

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