大東亜戦争は、国際法的に複数の性格を帯びている。英米との関係においては、典型的な帝国主義戦争だ。アジア諸国との関係では、日本は侵略国であると非難されても仕方がない面がある。しかし、ソ連との関係においては、日本が侵略された側だ。ソ連は当時有効だった日ソ中立条約を侵犯して、日本に宣戦布告した。さらに、満洲(中国東北部)を中心に日本軍の将兵と民間人をソ連領に抑留し、極寒のシベリアや灼熱(しゃくねつ)の中央アジアで強制労働に就かせた。抑留者は60万人以上で、5万5千人以上が死亡した。
シベリア抑留者の遺骨収集は、あの戦争で筆舌に尽くしがたい苦労をした先人の霊に報いるための重要な事業だ。にもかかわらず、厚生労働省の派遣団が平成26年に持ち帰った16人分の遺骨について、日本人のものでない可能性が高いことが明らかになった。厚労省はこの事実を去年把握したにもかかわらず、公表していなかったことが7月29日に露見した。
鈴木宗男参議院議員(日本維新の会)が、厚労省に説明を求めると、翌30日に社会・援護局の局長、審議官と担当官2人がやってきて、書類を基に説明した。事実関係についてはこう記されていた。
〈○戦没者の遺骨収集の際には、現地又は日本からの鑑定人が同行。骨の形質の鑑定を行い、相手国の了解を得た上で、日本人であると思われる御遺骨を送還。平成30年度からは、全ての収集について、日本からも鑑定人が同行。
○平成26年8月に、ロシア連邦ザバイカル地方3018埋葬地に厚生労働省から遺骨収集団を派遣。
○現地での形質人類学的鑑定の結果、日本人の御遺骨である蓋然性が高いものとして、相手国の専門家の了解を得て、16柱を日本に送還。
○平成30年8月の「戦没者遺骨のDNA鑑定人会議」において、専門家から、DNA鑑定の結果、16柱について、日本人でない、または日本人でない可能性が高いとの報告あり。〉