2023年8月19日、御嶽山の8合目で、タキシードに身を包み、ウェディングドレスを纏った2体の人形が並べられました。所清和さんと妻・喜代美さんは、人形を優しく抱きかかえながら、その姿を見つめていました。
この人形は、所さんの亡くなった息子・祐樹さんと婚約者・由紀さんをイメージして作られたものです。2014年9月27日、御嶽山の噴火は戦後最悪の火山被害を引き起こしました。祐樹さんと由紀さんはこの噴火で命を落としました。もし生きていたら、彼らは結婚式を挙げ、子どもを授かり、幸せな家庭を築くことができたかもしれません。
災害から9年の歳月を経て、ついに結婚式が行われました。それまで待ち続けた父・所さんは、どんな困難に直面し、どんな希望を見いだしてきたのでしょうか。
無言の帰宅「親に送られるバカ息子め。逆だろう順番が」
2015年2月1日、所清和さんと田中記者が挨拶を交わし、密着取材が始まりました。この取材を通じて、父の心情や思いを知ることができました。
2014年9月27日、御嶽山の噴火が起こりました。父・所さんは、行方不明となっていた息子・祐樹さんと婚約者・由紀さんの情報を求めながら、マスコミの前で訴えました。そして、噴火から5日後の10月1日、祐樹さんと由紀さんの死亡が確認されました。
所さんは息子を連れて帰ることができたことに少し安心しながらも、カメラの前で会見を行いました。「親に送られるバカ息子めって。逆だろう順番が」と静かに語りました。
再び訪れた自宅での会話から見える父の気持ち
4ヶ月後、田中記者は再び所さんの自宅を訪れました。彼らの最初の挨拶はこの時の会話でした。田中記者自身も息子がいますが、名前は違えども同じ「ゆうき」です。同じ“息子をもつ父親”として、所さんの気持ちがより身近に感じられました。
このように、所さんは噴火から9年間の記憶を胸に抱きながら、息子の結婚式を実現させました。涙と希望が交錯する中で、彼は新たな道を進んでいくことでしょう。
