渡り鳥飛来と共に高まる鳥インフルエンザの脅威:韓国で警戒レベル深刻化

韓国では、冬鳥の飛来シーズンを迎え、高病原性鳥インフルエンザ(AI)への警戒が強まっている。特に、京畿道龍仁市の清渼川では、H5N1型ウイルスが検出され、危機警報が最高レベルの「深刻」に引き上げられた。この記事では、韓国におけるAIの現状と専門家の見解、そして私たちが取るべき対策について詳しく解説する。

渡り鳥の飛来地でAI検出:現場の緊迫感

京畿道龍仁市の清渼川は、南漢江の支流であり、多くの渡り鳥が飛来する場所だ。しかし、美しい自然風景とは裏腹に、現在この地域はAIの脅威にさらされている。10月17日、衰弱したオシドリからH5N1型ウイルスが検出されたことを受け、環境当局と自治体は周辺を統制区域に指定。AI予察員が常駐し、鳥の異常行動や死骸の有無を監視している。

清渼川で渡り鳥を監視するAI予察員清渼川で渡り鳥を監視するAI予察員

清渼川では、カルガモ、マガモ、オシドリなど、多くの渡り鳥が羽を休めている。しかし、これらの鳥の中にAI保菌個体がいる可能性があり、集団感染の懸念が高まっている。鳥類の移動範囲を考慮すると、半径10キロメートル以内の畜産農場もAI感染のリスクにさらされている。

ソウル大学山林科学部の崔昌勇教授は、「AI流行初期には渡り鳥の大量死が見られたが、現在では多くの鳥が抗体を保有し、無症状で感染している」と指摘。今回捕獲されたオシドリは、症状が現れたために群れから離れた個体だと推測している。

畜産農家の不安:高病原性AIへの対策は?

AIの発生を受け、龍仁市周辺の畜産農家も緊急事態に陥っている。ある養鶏農家は、ひよこ数千羽にワクチン接種を行っているものの、「低病原性AIには有効だが、高病原性AIに対する予防ワクチンはない」と不安を口にする。

哺乳類間感染の拡大:パンデミックの懸念

1996年に中国で初めて発見されたH5N1型ウイルスは、近年、哺乳類間での感染が確認され、アザラシ、キツネ、トラなど様々な種に感染を広げている。世界保健機関(WHO)によると、H5N1は少なくとも485種の鳥類と48種の哺乳類に感染する可能性があるという。

専門家の間では、AIパンデミックは時間の問題との見方が強まっている。崔教授は、「以前は野生鳥類や家禽と接触した人間や動物が個別に感染するケースが中心だったが、ここ2~3年は哺乳類間で感染が広がっており、深刻度が増している」と警鐘を鳴らす。さらに、気候変動による生息地の消失も、種間の接触機会を増やし、ウイルスの進化を加速させている要因の一つだという。

ヒトへの感染事例:世界的な脅威

今春、米国テキサス州では、乳牛農場の労働者がAIに感染する事例が報告された。これは、ウイルスが乳牛の間で流行し、ヒトに感染した初めてのケースであり、関係者に衝撃を与えた。米疾病対策センター(CDC)の元局長も、AIパンデミックは「いつ起こるかの問題」だと警告している。

秋に入り、カリフォルニア州では酪農従事者11人が、ワシントン州でも家禽農場の労働者3人がAIに感染した疑いがあり、疫学調査が進められている。季節性インフルエンザの流行時期と重なることで、AIの感染経路の追跡が困難になり、ウイルスの更なる進化を招く可能性も懸念されている。

人類の家畜システムがウイルス進化を促進?

韓国ではまだヒトへの感染例は報告されていないものの、予断を許さない状況が続いている。5月にカモ農場でAIが検出されたこと、昨年は低病原性だったH5N3型ウイルスが今年は高病原性として確認されたことなど、不穏な兆候が現れている。

崔教授は、「本来、野生鳥類は低病原性の鳥インフルエンザウイルスを保有しているが、人類の家畜システムによってウイルスが高病原性に進化し、種間移動を可能にする環境が作られている」と指摘。この過程が繰り返されることで、卵、牛乳、肉などを通じてウイルスが拡散し、全ての人類が被害を受ける可能性があると危惧している。

韓国では、渡り鳥の飛来と共にAIの脅威が高まっている。関係当局による監視体制の強化とともに、私たち一人ひとりが正しい情報に基づいて適切な対策を講じることが重要だ。