中国、何衛東・苗華両氏を含む9名の高官を解任・党籍剥奪

■ 現職政治局委員に及ぶ前例なき粛清

中国国防部は、中央軍事委員会(CMC)副主席であり政治局委員でもある**何衛東(He Weidong)**氏が、
重大な規律違反により調査を受け、解任および中国共産党ならびに人民解放軍(PLA)から除名されたと発表した。
現職の政治局委員がこのような処分を受けるのは極めて異例であり、
中国の軍と政治の両面に衝撃を与えている。

中国、何衛東・苗華両氏を含む9名の高官を解任・党籍剥奪

■ 9名の将官に及ぶ処分

今回の処分対象は何衛東氏のほか、苗華(Miao Hua)何宏軍(He Hongjun)王秀斌(Wang Xiubin)
林向陽(Lin Xiangyang)秦樹桐(Qin Shutong)袁華智(Yuan Huazhi)
王厚斌(Wang Houbin)、**王春寧(Wang Chunning)**の計9名。
いずれも中央委員クラスの高級将校であり、王厚斌氏を除き全員が中央委員を務めていた。

国防部報道官の張暁剛氏は、
「これらの人物は重大な規律違反および職務上の犯罪を犯し、深刻な悪影響をもたらした」と述べ、
「軍隊の浄化、団結、規律および戦闘力の強化を目的とする措置である」と説明した。

■ 台湾をにらむ第31旅出身の人脈

何衛東、苗華、林向陽の3氏はいずれも台湾方面を担当する**第31旅団(旧第31軍)出身であり、
長年にわたり福建・東部戦区で活動してきた経歴を持つ。
また王厚斌氏の解任により、人民解放軍の
ロケット軍(旧第二砲兵部隊)**歴代司令官は全員失脚したことになる。

■ 党中央第4回全会議を前にした異例の発表

この発表は、今月下旬に予定されている中国共産党中央委員会第4回全体会議(四中全会)を目前に控えた時期に行われた。
次期五カ年計画と国家戦略を議論する重要な会議であり、
米中対立が激化する中での人事粛清は、政治的メッセージとしての意味も大きい。

軍事評論家の宋忠平(Song Zhongping)氏は、
「今回の一連の処分は、PLAが極めて厳格な規律を実施している証拠であり、
 いかなる階級・地位であっても汚職は容認しないという姿勢を示した」と分析している。

■ 権力集中と軍の再編成

何衛東氏はかつて東部戦区司令官として台湾有事の指揮体制を担っていた人物。
苗華氏はPLAの政治工作・思想部門を統括し、軍の内部統制を象徴する存在だった。
両者が同時に失脚したことで、習近平主席の下での軍内統制強化と人脈刷新が一層明確になった。

長期の停職と調査を経ての党籍剥奪は、単なる汚職摘発に留まらず、
軍上層部の忠誠再確認という政治的メッセージでもある。
軍事的には経験豊富な将官を失うリスクを伴うが、
政権側にとっては「純化された忠誠心」と「統一的指揮系統」の確立を優先した形だ。

■ 戦略的意味と国際的波紋

今回の粛清は、台湾海峡や南シナ海を巡る軍事緊張の中で行われた点に注目すべきである。
経験豊富な軍司令官の排除は短期的には戦力低下を招く可能性があるが、
長期的には「忠実で統制の取れた軍隊」への再構築を狙うものとみられる。

米国およびその同盟国はこの動きを注視しており、
中国の意思決定過程や即応能力に不透明感が生じることを懸念している。
習近平政権の権力集中が軍の安定と同義であるのか、それとも脆弱化の兆しか、
国際社会はその行方を慎重に見守っている。


文責:南アキラ(政治アナリスト/JP24H.com)
出典:新華社通信、AP通信、BBC、The Diplomat(2025年10月18日)