イラク向け「天弓II」輸出を巡り、韓国企業LIGネクスワンとハンファが対立

韓国の次世代中距離地対空ミサイル「天弓II」(M-SAM2、韓国版パトリオット)のイラク輸出を控え、共同開発企業であるLIGネクスワンとハンファの間で対立が生じています。総額4000億円を超える大型契約ですが、契約プロセスや納期、支払い能力などを巡る両社の意見の相違が表面化し、韓国防衛産業に波紋を広げています。

イラクへの「天弓II」輸出契約:両社の主張の食い違い

LIGネクスワンは9月20日、イラクへの「天弓II」輸出契約を発表しました。契約金額は3兆7134億ウォン(約4088億円)に上ります。「天弓II」は航空機やミサイルを迎撃できる高度な防衛システムで、LIGネクスワンがシステム統合、ハンファ・エアロスペースが発射台と車両、ハンファシステムがレーダーを担当する共同開発体制となっています。

天弓II発射台天弓II発射台

しかし、今回のイラク輸出契約は、LIGネクスワンが主導で進められ、ハンファ側は価格や納期などの重要な情報が共有されていなかったと主張しています。過去のUAEやサウジアラビアへの輸出では3社共同で契約を進めていましたが、今回はLIGネクスワン単独での発表となり、ハンファ側は不快感を示しています。

ハンファの懸念:納期と支払い能力

ハンファは、イラクへの早期納入の可否に懸念を抱いています。既にサウジアラビアへの輸出契約を結んでおり、既存の生産に加えてイラクへの早期納入に対応できるか、生産能力に疑問を呈しています。

また、イラクの資金調達能力にも懸念があります。ハンファは2012年にイラクの「ビスマヤ新都市プロジェクト」を受注しましたが、内戦の影響で10年間事業が停滞しました。今年になって部分的に再開されたものの、完全な正常化にはまだ時間がかかると予想されています。このような状況下で、「天弓II」導入費用をイラクが確実に支払えるのか、ハンファは不安視しています。

LIGネクスワンの反論:契約履行に問題なし

一方、LIGネクスワンは、現地生産など複雑な工程がないため、納期に問題はないと主張しています。ハンファとのコミュニケーション不足については、ハンファ側の対応の遅れが原因だと反論しています。LIGネクスワンのイ・ヒョンス海外事業部門長は、「7月中旬にハンファ本社を訪ね、早期検討を要請したが、なかなか返答がなかった」と述べています。

防衛事業庁の仲裁:依然として合意に至らず

両社の対立が表面化したことを受け、韓国防衛事業庁は9月24日に3社協力会議を開き、仲裁に乗り出しました。しかし、1カ月以上が経過した現在も合意には至っていません。

両社とも契約は締結済みであるため、解決策を見出す努力は続けているとしていますが、対立の長期化が懸念されています。韓国の防衛産業にとって重要な輸出案件であるだけに、早期の解決が望まれます。

韓国の軍事専門家、キム・ヨンチョル氏は「今回の対立は、大型輸出案件における企業間の連携の重要性を改めて示すものだ」と指摘。「政府主導で円滑なコミュニケーションを促進し、再発防止策を講じる必要がある」と提言しています。