体が力んで硬くなっていると、痛みやコリの原因となる上、疲れや不調の原因にもなります。無理な筋トレなどしなくても、凝り固まった体の力を抜けば、健康で引き締まった体に変わります。トレーナー歴25年、のべ4万人以上にパーソナル指導を行う鈴木亮司さんに、ジャーナリストの笹井恵里子さんが聞きました。(パーソナルトレーナー 鈴木亮司/ジャーナリスト 笹井恵里子)
● 凝り固まった体を 瞬時に柔らかくする方法
「無駄な力を抜け」「リラックス、リラックス」――スポーツやビジネスの場面で、よく他者や自分にそういった言葉がけをしますよね。けれども自分で瞬時に凝り固まった体の力を抜くなど難しいと思うのではないでしょうか。
ところが、できるのです。
基本的に体が柔軟な人は緊張の度合いは低く、硬い人は高い。ですから力を抜くとは、凝り固まった体を柔らかくすることでもあります。これがたった1分間でできるのです。
論よりも、まずは体験を。やり方は簡単です。
1・最初に、現在の体が緊張状態にあるかどうかを知るために「前屈」と「後屈」をしてみてください。
足をそろえて膝を伸ばしたまま前屈をし、おおよそ手の指が全部付くぐらいまで曲がる人は緊張状態はそこまで深刻ではありません。後屈にははっきりした目安はありませんが、両手を腰に当てて上半身を後ろに反らせようとしたとき、ほとんどできない人は緊張が進んでいると考えて間違いないでしょう。
2・1分間、両手で自分の顔を洗うようにさすってください。
「え、さする?」と疑問に思いましたか。そうです、さするのです。さするだけの1分間は意外と長いのですが、手を止めずに顔の後は髪、後頭部、耳の後ろなど頭全体を両手でさすってください。
そしてもう一度、前屈と後屈をしてみましょう。
どうでしょうか。最初に行ったときよりも明らかに柔軟性が増したのではないでしょうか。今、ダイヤモンド編集部の40代女性も一緒に取り組みましたが、彼女も最初は前屈して床に手の指が付くかどうかという程度だったのに、1分間顔をさすっただけでしっかりと床に両手が付きました。体が柔らかくなったのです。
● 体の感覚を取り戻して 無駄な力を取る
この動作を私は「ボディマップ体操」と名付けています。
さすることで、私たちが脳内に持つ“身体地図”が鮮明になり、体の感覚を取り戻して無駄な力を取ることができます。
特に日常生活で部屋の角に足をぶつける、狭い空間を通ろうとして体が当たってしまう、または小さな段差でつまずくというようなことがよく起きる人は、脳内のボディマップが鮮明ではないのです。顔だけでなく、肩から腕、ろっ骨まわり、おなかまわり、脇腹・腰まわり、足と全身を満遍なくさすると、脳が体の隅々まで学習し、そういったことは起きなくなります。
ただし、脳はすぐ忘れてしまいますから、繰り返し体をさすることが必要。1日数回でも毎日行うことで、脳からの指令が神経に伝わりやすく、関節や筋肉もよく動くようになります。すると転びにくくなったり、正しい姿勢も維持しやすくなったりするでしょう。何より無駄な力みが抜けるのです。
● 無理な筋トレをしなくても 脱力で引き締まった体になる
さて私はこれまでプロのアスリートから高齢者まで4万人以上のパーソナルトレーナーを務め、心身の力みを取る方法を指導してきました。なぜ「力を抜くこと」が大切なのでしょうか。一言で言うなら無駄な力みは、痛みやコリの原因となる上、自律神経を乱し、睡眠や精神状態にも悪影響を及ぼすからです。血流が悪くなり、新陳代謝を妨げ、疲れや不調の原因にもなってしまいます。
ところが近年、力を入れて筋力トレーニング(筋トレ)に励む人がなんと多いことでしょう。筋トレは、筋肉が増えたことが目で見てわかり、達成感を得やすい半面、血管や関節の負担が大きい。また一般の人が筋トレのような力む運動ばかりしていれば、体を動かすときに力むクセがつきます。それでは己の“本当の力”を発揮することができないのです。
無理な筋トレなどしなくても、脱力によって凝り固まった筋肉を柔らかくすることが、健康な体や引き締まった体形への近道です。