ロシアによるウクライナ侵攻は3年目に突入し、戦費の膨張が止まらない状況です。jp24h.comでは、専門家の見解を基に、ロシア政府がさらなる増税を余儀なくされる可能性について考察します。
戦費膨張とロシア経済への影響
2025年度のロシア予算案では、総支出の約3分の1、GDPの6.3%が軍事費に割り当てられています。これは冷戦期以来の最高水準であり、防衛費が社会保障費の2倍になるのは初めてのことです。この巨額の軍事費は、ロシア経済に深刻なインフレ圧力をかけています。金利は2003年以来の高水準に達し、ルーブルも対ドルで1年ぶりの安値を更新しました。西側諸国からの制裁により国際債券市場からの資金調達が困難な状況下、ロシア政府の資金調達手段は限られています。
ロシア・モスクワの街並み
増税だけでは足りない?専門家の懸念
ロシア政府はすでにウクライナ侵攻の資金調達のため増税に着手しています。大規模な税制改革により、2025年にはGDPの1.7%に相当する追加歳入が見込まれています。しかし、専門家からはこの対策だけでは不十分であるとの声が上がっています。アルファ・ウェルスのアナリスト、アレクセイ・クリミュク氏は、「国内税の調整は今後も当局の焦点であり続けるだろう。2025年には税法や規制改正の動きが活発化すると予想される」と指摘しています。
原油価格下落の影
ロシアの主要輸出品である原油の価格下落も、財政状況を悪化させる要因となっています。予算案では、原油価格は2024年の1バレル平均70ドルから2027年には65.5ドルに下落すると予測されており、国家歳入への打撃は避けられません。アルファ銀行のチーフエコノミスト、ナタリア・オルロワ氏は、「予算は原油価格に大きく依存している。今後数年間で、追加歳入の確保が課題となるだろう」と述べています。
あらゆる財源から歳入を
シルアノフ財務相は昨年、支出抑制の必要性を訴え、抑制しなければインフレや増税を通じて国民や企業に負担が及ぶと警告しました。そして、その両方が現実のものとなっています。インフレ率は中央銀行目標の2倍以上で推移し、主要金利もプーチン政権発足以来最高水準の21%に達しています。
西側諸国の制裁にもかかわらず、ロシア経済は驚くほどの底堅さを維持しています。失業率は過去最低水準で、賃金上昇率も過去最高を記録するなど、国民の不満は表面化していません。しかし、2025年からは法人税・個人所得税の引き上げ、新たな自動車リサイクル税導入など、3年間で14兆7000億ルーブル(約23兆円)の税収が見込まれています。PEキャピタルのエコノミスト、エフゲニー・ナドルシン氏は、「これは増税、債務返済コスト、地政学的支出の予算だ」と述べ、ロシアから撤退する外国企業への「出国税」引き上げや、これらの企業資産のロシア人購入者からの寄付金徴収計画などを、政府による新たな税制措置の例として挙げています。「最近の予算ほど、あらゆる可能な財源から歳入を引き出すことに重点を置いたものはない」とナドルシン氏は強調しています。
支出削減の現実
予算案の分析によると、2025年に導入される支出削減策には、中小企業支援の11.6%削減、教育開発プログラムへの資金の11%削減などが含まれています。社会保障のための地方予算への補助金も31%削減され、社会サービス近代化プログラムへの資金も35%減少します。元中央銀行副総裁で経済学者のセルゲイ・アレクサシェンコ氏は、「2025年の予算は、プーチン大統領が戦費調達のため、ほぼすべての分野で支出を削減せざるを得ない状況を示している」と指摘しています。
コリチェフ財務副大臣は、ウクライナ侵攻開始以降、軍事費はGDP比で3.0~3.5%増加した一方で、総支出の増加はわずか2%にとどまっていると説明。「これは優先順位付けを示しており、他の支出は実質的にGDPの1~1.5%相当が削減されたことを意味する。これが現在の財政健全化策だ」と述べ、政府の優先順位変更を公式に認める異例の事態となっています。
元経済副大臣で経済学者のアンドレイ・クレパチ氏によると、プーチン大統領肝いりの「国家プロジェクト」(戦略的に重要な地域の開発計画)でさえ、資金の一部が2028~2030年に延期されるなど、危機的な状況に陥っているといいます。「2026~2027年には、未分配の資金と準備金を通じて財源確保の機会を見つける必要がある。そうしなければ、目標達成が危うくなるだろう」とクレパチ氏は警鐘を鳴らしています。