阿部定事件。1936年、日本中を震撼させたこの事件は、今もなお人々の記憶に深く刻まれています。不倫相手を殺害し、男性器を切断、そして逃亡劇。あまりにもセンセーショナルな事件の背景には、一体何が隠されていたのでしょうか？本記事では、事件当時の世間の反応や阿部定のその後の人生に迫り、この悲劇が現代社会に投げかける意味を改めて考えてみます。
事件後の阿部定、そして晩年
「事件当時、家には新聞社からの電話が鳴りっぱなしでした。あの頃は、人殺しなんてあまり無かった時代ですから、大変な騒ぎでしたね」と、事件を知る人物は語っています。阿部定事件は、単なる殺人事件にとどまらず、当時の社会に大きな衝撃を与えたのです。
三河家店主の和夫さんは、東京で修行中、晩年の阿部定が経営するバーを訪れた経験があります。東京オリンピック前のことだったそうです。「三河家の息子だとは名乗りませんでした。ほんの短い時間、店に顔を出しただけでした。こじんまりとしたお店でしたね。母は妻に阿部定のことを話したようですが、私には何も語ってくれませんでした。事件が事件だけに当然のことでしょう。どんな人か見てみたかったんです。ごく普通の老婦人でしたよ」
阿部定が事件を起こした尾久三業地の現在。古い旅館は駐車場へと姿を変えている。
丹波篠山、そして遊郭街
丹波篠山。黒豆と猪鍋で有名な、のどかな田園風景が広がるこの土地と阿部定。一見すると結びつきを想像するのは難しいかもしれません。しかし、かつてこの地にも遊郭街が存在し、阿部定もそこで身を寄せていたのです。
遊郭は、この地に駐屯していた陸軍歩兵第七〇連隊の兵士のために造られたものでした。阿部定が働いていた大正楼は、今では取り壊されてしまいましたが、取材当時にはまだ現存していました。大正楼以外にも、当時の面影を残す遊郭や建物が点在し、現代の風俗街とは異なる、独特の文化の香りが漂っていました。
冬の寒さが厳しく、周囲は田んぼばかりの丹波篠山は、阿部定にとって働きやすい場所ではなかったようです。彼女は遊郭から逃げ出し、他の土地へと渡り歩きました。
かつて阿部定が身を寄せた丹波篠山の遊郭街。今ではその面影も薄れつつある。
事件現場：尾久三業地
東京都荒川区尾久。かつて尾久三業地と呼ばれた歓楽街は、阿部定が事件を起こした場所です。2年前に訪れた際には、古い旅館が残っていましたが、今では駐車場となっています。当時の雰囲気をわずかに残すのは、密集した住宅街と細い路地だけです。
かろうじて事件当時の記憶を持つ老女に会うことができました。彼女は当時、芸者の見習いをしていたそうです。「あの事件は本当に衝撃的でした。誰もが阿部定のことを話題にしていました」と、彼女は当時を振り返ります。 著名な犯罪心理学者、山田教授（仮名）は「阿部定事件は、当時の社会の歪みや女性の抑圧された状況を反映していると言えるでしょう」と分析しています。
阿部定事件、そして現代社会
阿部定事件は、時代を超えて私たちに多くの問いを投げかけています。それは、人間の愛憎劇、社会の闇、そして女性の生き方。この事件を風化させることなく、後世に伝えていくことが大切なのではないでしょうか。阿部定という一人の女性の人生を通して、私たちは現代社会の課題を改めて見つめ直す必要があるのかもしれません。
