日本の歴史を彩る数々の名旅館。その中には、訪れた人々との交流が生んだ物語が幾重にも積み重なっています。今回は、会津東山温泉に佇む老舗旅館「向瀧」と、昭和を代表する政治家・田中角栄との知られざるエピソードをご紹介します。
ヘリコプターで現れた首相と、老舗旅館「向瀧」との出会い
昭和47年（1972年）11月、会津若松の空にヘリコプターの轟音が響き渡りました。自民党候補の応援演説を終えた田中角栄首相が、宿泊先である「向瀧」へと向かったのです。当時を知る「向瀧」6代目社長・平田裕一氏は、小学校にまで聞こえてきたヘリの爆音を鮮明に覚えていると語ります。
田中角栄氏
田中首相を「向瀧」へと案内したのは、地元選出の有力政治家・渡部恒三氏でした。玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた首相の目に飛び込んできたのは、磨き上げられた美しい廊下。その先には、日本庭園の緑が鮮やかに広がっていました。
昇り龍の如き庭園と、歴史が息づく「はなれ」
傾斜した庭園には鯉が悠々と泳ぐ池があり、斜面には3階建ての宿泊棟がそびえ立ちます。その姿は、まるで昇り龍が天へと昇っていくかのようです。そして正面には、大正初期に建てられた「向瀧はなれ 一棟」が静かに佇んでいます。
10畳、4畳、6畳の書院造りの「はなれ」は、随所に歴史の重みを感じさせます。四方柾の柱、野口英世の書による額縁、そして大正時代の職人技が光る手作りのガラス窓。窓を開けると中庭の景色が一望でき、爽やかな風が吹き込みます。田中首相は、渡部氏と共にこの特別な空間へと足を踏み入れたのでした。
「美酒佳肴」の趣：田中角栄が過ごした特別な一夜
「はなれ」の10畳間には、「美酒佳肴」と書かれた額縁が掲げられています。この言葉通り、田中首相はきっと美味しい料理とお酒を堪能し、会津の夜を満喫したことでしょう。歴史的な建造物の中で、どのような話が交わされたのか、想像するだけで胸が高鳴ります。
会津の歴史と文化に触れる特別な体験
「向瀧」は、単なる宿泊施設ではありません。日本の伝統と文化が息づく特別な空間です。田中角栄をはじめ、多くの著名人が訪れたこの宿で、あなたも歴史の息吹を感じてみませんか？
伝統的な日本建築、美しい庭園、そして温かいおもてなし。会津東山温泉「向瀧」は、心に残る特別な時間を提供してくれるでしょう。ぜひ一度足を運んで、その魅力を体感してみてください。
