人生の終わり方を自ら選択する権利、尊厳死。スイスの安楽死団体「ライフサークル」代表であり医師のエリカ・プライシック氏は、750人以上もの人々の最期に寄り添ってきました。「死神」と非難されることもある彼女ですが、その活動の裏には、深い苦悩と揺るぎない信念があります。この記事では、プライシック氏の活動、そして彼女が安楽死支援に至った背景を探ります。
安楽死は人権の一つ?プライシック医師の信念
プライシック医師と日本人女性
プライシック氏は、スイス・バーゼルでホームドクターとして活躍しています。軽症から中等症の患者を診察する傍ら、終末期医療にも深く関わっています。彼女は「ライフサークル」を設立し、安楽死を希望する患者たちの支援を行っています。
プライシック氏は、安楽死を「人権の一つ」と捉えています。「人は誰でも、いつ、どこで、どのように死にたいのかを決める権利がある」というのが彼女の信念です。海外からの安楽死希望者を受け入れる理由もそこにあります。多くの国では安楽死が認められておらず、スイスを訪れる人は、肉体的にも精神的にも大きな負担を抱えているのです。「母国で安楽死できれば、わざわざスイスまで来る必要はない。安楽死は世界中で合法化されるべき」と彼女は訴えます。
辛い過去、そして父親の最期
プライシック医師
プライシック氏の安楽死支援の背景には、彼女自身の辛い過去があります。6歳で母親を亡くし、7人兄弟のシングルファザーとして奮闘した父親。そんな父親が脳卒中で倒れ、寝たきりになったのです。絶望した父親は自殺未遂を起こし、プライシック氏は大きなショックを受けます。長年緩和ケアに携わってきた彼女は、「自殺を手助けしてはならない」という強い信念を持っていました。
しかし、ある日、父親はプライシック氏に機関車の写真を見せ、自らの首を絞めるジェスチャーをしました。電車に飛び込んで自殺するつもりだと悟ったプライシック氏は、激しい葛藤に襲われます。「人はここまで苦しい思いをして、生きる必要があるのだろうか?」と自問自答し、父親の尊厳ある死を願うようになったのです。
プライシック氏はスイスの安楽死団体に相談し、父親は安楽死を選びました。この経験が、彼女の人生観を大きく変えることになります。
スイスにおける安楽死の現状
プライシック医師と記者
スイスは、世界でも数少ない安楽死が合法化されている国の一つです。厳しい条件を満たす必要がありますが、末期患者や耐え難い苦痛を抱える人々が、自ら人生の幕を閉じる選択肢を持つことができます。
プライシック氏の活動は、安楽死をめぐる倫理的な議論を巻き起こしています。「尊厳死とは何か?」「自己決定権はどこまで認められるべきか?」など、様々な問いが投げかけられています。 安楽死という難しいテーマに向き合い続けるプライシック氏。彼女が750人以上もの人々の最期に寄り添ってきた背景には、深い苦悩と揺るぎない信念がありました。
安楽死の未来
安楽死をめぐる議論は、今後も続いていくでしょう。日本を含む多くの国で、安楽死は法的に認められていません。しかし、高齢化社会の進展とともに、終末期医療のあり方が問われています。プライシック氏の活動は、私たちに「人生の終わり方」について深く考えさせるきっかけを与えてくれます。