12月22日に「M-1グランプリ」決勝が放送される。昨年は結成6年目の若手コンビ・令和ロマンが優勝した。2008年「M-1」王者であるNON STYLE石田明さんは彼らの漫才を「とにかく堂々としていて、危なっかしいところがない。結成6年の芸歴で、あの域に達しているのは末恐ろしい」という――。
※本稿は、石田明『答え合わせ』(マガジンハウス新書)の一部を再編集したものです。
■漫才というおもちゃで遊び抜いた令和ロマン
2023年のM-1で優勝した令和ロマンには、あらゆる点で驚かされました。トップバッターで優勝したのは、2001年、第1回M-1の中川家以来、22年ぶりでした。何より、結成6年目で初めて立ったM-1決勝という大舞台で、漫才というおもちゃであれだけ遊び抜いたのが、すごかった。
寄席ならともかく、はっきりと点数をつけられる賞レースでは、通常、ボケの量を調整しながら戦います。
1つウケた。2つウケた。もうツッコミは終わっているけど、もっとボケたい。3つまでは行けるか。4つはやりすぎだから、3つまでやって止めておこう――わずか4分ですが、ギリギリの調節をしながらネタを作っているんです。
でも、2023年のM-1決勝での令和ロマンは、こうした抑制や調整をいっさいしていないように見えました。
■登場直後に相方のヒゲをいじり続けたことの意味
賞レースでは、無駄撃ちになるかもしれないボケは入れないほうが得策なのに、そんなことは気にしていないがごとく、くるまくんがダダダーッとしゃべり続けた。それはステージに登場して一発目、「相方の(松井)ケムリくんのヒゲ」について、つかみにしては長すぎるくらい話したところからそうでした。
あまりにも人間っぽいナマ感が強い漫才を見せられてしまったので、その後に続く漫才が作り物っぽく見えてしまったくらいです。
特に2番手、敗者復活戦で勝ち上がったシシガシラは、令和ロマンの直後ということもあって自分たちの空気を作り切れませんでした。彼らのハゲネタは悪くなかった。
でも令和ロマンの突き抜け方には追いつけなかった印象です。
3番手のさや香は、いつもながらの激しいぶつかり合いで加熱していく見事な漫才でした。そうなると、さらに後のコンビはやりづらくなる。結果、4番手のカベポスターも、実力を出しきれないエアポケットに落ちてしまいました。
■結成6年目であの領域に達しているのは末恐ろしい
ボケのパンチ力だけを見れば、一番強かったのは、その次の出順だったマユリカやと思います。ただ、マユリカのパンチ力をもってしても、最初の令和ロマンの鮮烈な印象を消し去ることはできなかった。それだけ令和ロマンがすごかったということでしょう。
M-1決勝常連の真空ジェシカは、彼ら本来の漫才を少しわかりやすいほうに寄せていたように感じました。
戦略としては正しかったのかもしれません。でも2023年はヤーレンズという、本当にバカバカしくてわかりやすく、それが最高に笑えるというコンビが先に出ていたことで、少し狙いが外れてしまったんかな。
令和ロマンの勝因は、所作や展開を通じて、大胆さや余裕、いい意味で場を「舐めている」感、漫才を「おもちゃにしている」感、人間を見せている「生っぽさ」が出たことです。ただひょっとしたら、そういうふうに見せたほうが笑ってもらえるだろうという計算に基づいたブラフかもしれませんが。
それにしても、すべての所作がスムーズで、ちょっと生意気そうやのにお客さんを味方につけるのも上手い。とにかく堂々としていて、危なっかしいところがない。結成6年の芸歴で、あの域に達しているのは末恐ろしいとすら思いました。