鴨緑江、中朝国境を流れるこの川は、かつて北朝鮮の人々にとって生活の源でした。飲み水はもちろん、洗濯や水浴び、漁など、日常の様々な場面で鴨緑江は欠かせない存在でした。しかし、パンデミック以降、その風景は一変しました。今回は、厳重な国境警備によって変わり果てた鴨緑江畔の現状をお伝えします。
厳戒態勢下の鴨緑江:かつての日常は失われ
かつては、北朝鮮の人々が鴨緑江で洗濯や水浴びをする光景が日常でした。子供たちを連れ、川辺で洗濯する母親たちの姿は、のどかな風景の一部でした。しかし、金正恩政権による国境警備の強化により、今では川に近づくことさえ難しくなっています。越境や脱北を防ぐため、幾重にも張り巡らされた鉄条網が、かつての日常を遮断しているのです。
北朝鮮兵士が半地下の警戒詰め所で有線電話を使用している様子
10月中旬、水豊ダム下流の平安北道朔州郡付近を中国側から取材しました。超望遠レンズを通して捉えたのは、有刺鉄線の内側に閉じ込められた人々の姿でした。
パンデミック前の鴨緑江:人々の生活と豊かな自然
パンデミック以前の鴨緑江は、人々の生活と密接に結びついていました。女性たちは川辺で洗濯をし、岩場に洗濯物を干す光景がよく見られました。重労働ではありましたが、晴れた日に子供たちと川辺で過ごす時間は、彼女たちにとって大切なひとときだったのでしょう。
2019年9月、北朝鮮の朔州郡で鴨緑江の川辺で洗濯をする人々の様子
澄んだ水には魚も豊富で、網漁をする人々の姿も日常風景でした。鴨緑江の恵みは、食卓にも彩りを添えていたのです。しかし、今ではこうした光景はほとんど見られなくなりました。
2019年9月、北朝鮮の朔州郡で鴨緑江で網漁をする人の様子
監視の目:厳重な国境警備の現状
現在、鴨緑江周辺は厳重な監視下に置かれています。国境警備隊の兵士たちは、哨所で常に警戒を怠りません。窓ガラスが割れてテープで補修された哨所や、設置された監視カメラからも、緊張感が伝わってきます。
北朝鮮の国境警備隊の兵士が哨所で勤務している様子
取材中、自転車の手入れをしていた兵士が、私たちの船が近づくと自転車の陰に隠れて様子を伺う場面もありました。こうした兵士たちの行動からも、国境警備の厳重さが窺えます。
自転車の陰に隠れてこちらを伺う北朝鮮の兵士
農業と生活:変化の中の現状
農地では、作物の盗難を防ぐため、収穫期には監視小屋で夜通しで見張りをするそうです。小屋に座っていたのは女性の姿でした。厳しい状況下でも、人々は懸命に生活を続けています。
大根畑脇の監視小屋に座る女性
鴨緑江の畔で繰り広げられる人々の生活は、パンデミック以降、大きく変化しました。かつての日常は失われ、厳しい現実が突きつけられています。 国際社会は、この現状に目を向け、北朝鮮の人々の生活に支援の手を差し伸べる必要があるのではないでしょうか。