9.11テロ陰謀論の科学的検証:WTC崩壊の真実と専門家の見解

2001年9月11日、アメリカを襲った史上類を見ない「9.11同時多発テロ」は、4機の旅客機がハイジャックされ、ニューヨークの世界貿易センタービル(WTC)や国防総省ペンタゴンに激突した大規模テロ事件です。約3000人の犠牲者を出したこの事件は、イスラム過激派アル・カーイダによるものとされていますが、発生直後から「テロはアメリカ政府の自作自演だった」とする陰謀論が根強く存在し、いまだに多くの人々がその説を信じています。彼らはWTCビルの崩壊をテロリストによるものではなく、事前に仕掛けられた爆発物によるものだと主張し、その真実性に疑問を投げかけています。

ニューヨークの国立9月11日記念館・博物館の外観。9.11テロの悲劇と、その真実を伝える重要な場所。ニューヨークの国立9月11日記念館・博物館の外観。9.11テロの悲劇と、その真実を伝える重要な場所。

本記事では、東京大学非常勤講師で元法政大学教授の左巻健男氏の専門的な見解に基づき、これらの陰謀論、特に「軍用機突入説」や「制御解体説」が抱える論理的矛盾を科学的な事実に基づいて検証します。科学的根拠に基づかない言説の安易な発信や拡散は、法的リスクを伴う可能性がある点も留意が必要です。

「軍用機突入説」の論理的破綻

アメリカ政府の自作自演説を支持する陰謀論者たちは、9.11テロでWTCに突入したのは民間航空機ではなく、あらかじめ用意された軍用機であったと主張しています。しかし、この説は数多くの客観的証拠によって否定されています。事件後、瓦礫の中から見つかった機体の残骸、乗客の遺体、そして彼らの所持品といった物的な証拠は、明確にハイジャックされた民間機であったことを示しています。さらに、多数の目撃証言も民間機突入の事実を裏付けており、「軍用機突入説」には科学的・物理的な根拠が欠如しています。

WTCツインタワー崩壊の科学的メカニズム

WTCツインタワーは110階建てという当時世界一の高さを誇り、10年を要して1973年に完成しました。この巨大な建築物は、2001年9月11日に航空機の衝突とそれに続く火災によって崩壊しました。

鉄骨の融点と強度の関係

陰謀論者たちは、WTC崩壊の原因について「ジェット燃料の燃焼温度は最大1200℃であり、鉄の融点である1538℃より低いため、鉄骨が融けてビルが崩壊するはずがない」と主張します。しかし、この主張は科学的な事実を誤解しています。

実際には、鉄骨は融点に達しなくとも、800℃程度の高温にさらされるだけでその強度が半分近くにまで低下します。航空機の衝突による構造的なダメージに加え、ジェット燃料が引き起こした激しい火災の熱により、WTCの鉄骨の骨組みは著しく強度を失い、歪み始めました。その結果、上層階の巨大な重量を支えきれなくなり、最終的にビル全体の崩壊を誘発したと考えられます。鉄が融けるという極端な状況でなくとも、強度の低下だけで十分な崩壊メカニズムを説明できます。

WTCの建築構造と火災への脆弱性

WTCツインタワーは、当時の建築技術の限界を超えて110階という高さを実現するために、軽量鋼材を多用していました。これは、80階が限界とされていた時代において必然の選択でした。しかし、この軽量鋼材を用いた構造が、激しい火災に対して予期せぬ弱点となりました。高温になりやすい軽量鋼材は、火災の熱によって通常よりも早く軟化し、構造的な支持力を失ったのです。航空機衝突による衝撃と、それに続くジェット燃料の激しい火災が、この構造的な弱点を露呈させ、未曾有の崩壊へと繋がったのです。

情報拡散における法的リスクへの注意喚起

左巻健男氏も指摘するように、科学的な事実に基づかない言説を安易にSNSなどのソーシャルメディアで発信・拡散する行為は、社会的な混乱を招くだけでなく、名誉毀損や信用毀損といった法的リスクを伴う可能性があります。情報の受け手側も、根拠の曖昧な陰謀論を鵜呑みにせず、多角的な視点から事実を確認し、信頼できる情報源に基づいた判断を下すことが極めて重要です。

結論

9.11同時多発テロに関する「アメリカ政府の自作自演説」をはじめとする陰謀論は、専門家による科学的な検証によって、その論理的矛盾が明らかになっています。特にWTCツインタワーの崩壊は、ジェット燃料による激しい火災が鉄骨の強度を著しく低下させ、結果として構造的な崩壊を招いたという科学的事実で説明可能です。根拠のない情報を安易に信じたり拡散したりせず、正確な情報に基づいた理解を深めることが、現代社会を生きる上で不可欠な情報リテラシーと言えるでしょう。

参考文献

左巻健男 著『陰謀論とニセ科学 – あなたもだまされている -』(ワニブックス【PLUS】新書、2022年)より抜粋・構成