中国経済の減速が世界経済に影を落とす中、現地の実態はどうなっているのか?本記事では、ハーバード大学ケネディスクール・フェローのリチャード・ヤーロー氏の証言を元に、中国経済の現状と未来について深く掘り下げていきます。
活況の裏に潜むバブル経済の影
中国では、電気自動車、ドローン、半導体、AIなどのハイテク産業が「新質生産力」として注目を集め、活況を呈しています。しかし、ヤーロー氏はこれらの産業にもバブルの危険性があると指摘します。中国企業は需要予測を軽視し、過剰な生産能力拡大に突き進む傾向があり、これがバブル崩壊の引き金となる可能性を秘めているのです。
alt 中国の近代的な工場の外観。活況に見えるが、過剰な生産能力を抱えている可能性がある。
迫りくる「セキュラー・スタグネーション」の脅威
ヤーロー氏は、中国経済のもう一つの懸念材料として「セキュラー・スタグネーション(常態化した景気停滞)」を挙げています。これは、少子高齢化などの影響で需要が伸び悩み、低成長と高失業率が常態化する現象です。ヤーロー氏は、雇用創出効果の低いハイテク産業中心の経済構造が、この問題をさらに深刻化させると警鐘を鳴らしています。
アメリカ経済の轍を踏む中国
アメリカのハイテク企業は、巨額の利益を生み出しながらも雇用創出には貢献しておらず、結果的に賃金上昇や消費拡大に繋がっていない、とヤーロー氏は指摘します。そして、中国も同様の道を辿る可能性が高いと懸念しています。
ヤーロー氏が視察した中国のハイテク工場では、広大な敷地にわずか12人しか従業員がいないケースもあったといいます。一方で、数百人規模の従業員を抱える伝統的な製造業は業績不振に苦しんでおり、雇用への悪影響が懸念されています。
経済的苦境とメンタルヘルスの危機
ヤーロー氏は前回のインタビューで、中国の労働者の賃金が大幅に減少していると報告していました。今回は、その影響が金融業界にも及んでいることを明らかにしています。高収入の金融機関職員でさえ経済的苦境に追い込まれ、自殺に至るケースも発生しているという現実は、中国経済の深刻さを物語っています。
alt 台湾の小金門島から見た中国福建省厦門の景色。経済発展の象徴的な都市だが、その背後には深刻な問題が隠されている。
ヤーロー氏は、経済的な不安がメンタルヘルスの問題に発展する可能性を指摘し、中国政府が国民の心理的支援に力を入れる必要性を訴えています。そして、バブル崩壊後の日本で自殺者数が増加した歴史を教訓として、中国も同様の事態に陥らないよう対策を講じるべきだと提言しています。
中国経済の未来はどこへ向かうのか?
中国経済は、バブル崩壊とセキュラー・スタグネーションという二重の危機に直面しています。過剰な生産能力、雇用創出の低迷、そして人々の経済的不安は、中国社会全体の安定を揺るがす深刻な問題です。中国政府がこれらの課題にどのように対処していくのか、今後の動向に注目が集まります。