労働力不足に悩む日本で働く外国人が増える一方、川口市のクルド人問題など日本人との衝突も発生している。そんな中、今年4月、国会で実質的に「移民法」ともいえる制度改正が審議された。
一見、「劣悪な条件で働かされる外国人の労働改善」に見えるが、安易な法案成立に元内閣官房参与の髙橋洋一氏は警鐘を鳴らす。
本記事は『60歳からの知っておくべき地政学』の一部を再編集してお送りする。
技能実習法と入管法改正は愚策の「移民法」
2024年4月の衆議院議員補欠選挙の裏で、実質的に「移民法」ともいえる重要な制度改正が国会で審議されていた。しかし、このニュースは大々的には報じられなかった。
この改正では技能実習制度を廃止して、「育成就労」という新たな制度を導入した。育成就労制度では、試験などの条件を満たすことで、特定技能1号として最長5年間の就労が認められる。
その後、在留資格の更新に制限がない2号へ移行することができ、家族の帯同や将来の永住権申請も認められるようになった。
外国人の受け入れ期間の区別があいまいに
これにより、外国人永住者が増加する可能性はあるが、もし税金や社会保険料の未払いがあって国内での在留が適当でないと判断されれば、永住許可の取り消しもできるようになった。
一見すると、悪名高い技能実習が廃止されることで改良のように見える。それまでの技能実習は国際貢献を建前としながら、実際には安価な労働力の受け入れが目的だった。それが改正されたのだから。
筆者が問題視しているのは、育成就労(旧技能実習)から特定技能、永住権へ至る流れである。これをみる限り、今回の技能実習法と出入国管理法の改正は実質的に移民法だ。
一般的に先進国では、外国人の受け入れは短期と長期で明確に区別されている。しかし日本では、短期と長期の区別があいまいになってしまった。
外国人に日本を「選ばせるため」に資金を投入?
他国の例をみると、こうした条件は形骸化しやすい。たとえば大学卒業資格に関しても、問題となった小池百合子東京都知事のカイロ大学卒業の件のように、相手の大学が卒業と認めれば、それに従わざるを得ない状況がある。
世界の制度は国ごとに異なり、形式的な審査で不正を防ぐのは難しいのだ。
今回の制度改正の基礎となったのは、2023年11月に法務省が発表した報告書である。その中で筆者が奇妙に感じたのは、「外国人材に我が国が選ばれるようにすること」や「外国人との共生社会の実現を目指すこと」という趣旨が記されている点だ。
大前提として、日本が外国人を選び取るシステムを作るべきであり、外国人に日本を選ばせるために資金を投入するのは、制度設計として適切ではない。