政府が自衛隊の運用で使っている装備をフィリピン軍に政府開発援助(ODA)で供与することは平成27年に策定した開発協力大綱を反映している。フィリピン軍に対しては日本の防衛政策上のタブーを先行的に排除する取り組みが着々と進んでいるのも特徴だ。
開発協力大綱は4年策定で15年に改定を経たODA大綱の名称を変更して策定。旧大綱のもとでは「ODAでの他国軍支援はタブー視された」(政府高官)ため、軍関係はセネガル軍病院の産科棟改修などに限られ、軍の運用とは距離を置いていた。
一方、開発協力大綱は「民生目的、災害救助など非軍事目的の開発協力に」などと、軍関係に支援を行う際の目的と原則を明示。政府は29年にODAでパプアニューギニアの軍楽隊に楽器を供与した。人命救助システムは民生品で構成され戦闘に使う武器とその技術を指す防衛装備とは異なるが、自衛隊が運用で使う装備という点で支援内容を一歩進める意義がある。
政府は30年以降、フィリピン軍に海上自衛隊の練習機TC90などの無償譲渡もしている。防衛装備の海外移転を事実上禁じたとされる武器輸出三原則に代わる26年策定の防衛装備移転三原則や、中古装備を無償譲渡できるようにする29年成立の改正自衛隊法を受けた最初の措置だった。
フィリピン軍にODAの支援も加わる背景には、同国が南シナ海の領有権などで中国と対立を余儀なくされていることを念頭に「対中戦略上、外交安保面で協力強化が極めて重要」(政府高官)との判断がある。(半沢尚久)