松本零士氏がこの世を去ってから2年。今なお世界中の人々を魅了する壮大な宇宙叙事詩を生み出した巨匠の、知られざる素顔が明らかになります。妻であり、共に漫画界を牽引してきた牧美也子さん、そして娘の摩紀子さんが、創作の舞台裏や家族として過ごした日々を語ります。
漫画に捧げた人生、そして家族との時間
「父は、膨大な量の原稿や資料を残しました。整理は今も続いていますが、まるで終わりの見えない旅のようです」と、長女の摩紀子さんは語ります。2023年2月13日、急性心不全のため85歳で逝去した松本零士氏。世界的なSF漫画ブームを巻き起こした『銀河鉄道999』や『宇宙海賊キャプテンハーロック』など、数々の名作は、まさに星の海を旅するような壮大なスケールで描かれています。
松本零士さんと妻で漫画家の牧美也子さん
三回忌を迎えた今、妻の牧美也子さんも創作活動に復帰し、穏やかな日々を送っているといいます。少女漫画界の草分け的存在である牧さんは、『女性自身』読者には『悪女聖書』でおなじみでしょう。60年以上にわたり、大泉学園の自宅兼仕事場で、共に机を並べ、漫画を描き続けてきた二人。
「自宅と仕事場が一緒だったので、子供を仕事に巻き込まないよう、普通の家庭生活を心がけました」と牧さんは振り返ります。
“松本零士の娘”としての葛藤と誇り
「両親は、私の選択を尊重してくれました。でも、“松本零士の娘”であることが苦しかった時期もありました」と、摩紀子さんは正直な気持ちを吐露します。偉大な父の影に隠れがちだった娘としての葛藤、そして、その才能を受け継いだ娘としての誇り。複雑な感情を抱えながらも、彼女は父の遺志を継ぎ、漫画制作スタジオ・(株)零時社の代表取締役として、新たな物語を紡いでいます。
伝説の漫画家夫婦、その創作の秘密
共に漫画家として第一線で活躍してきた松本夫妻。家庭ではどのような姿を見せていたのでしょうか? 摩紀子さんは、仕事に没頭する父の姿を鮮明に覚えています。徹夜で原稿に向かうことも珍しくなく、その情熱はまさに燃え尽きるまで創作を続ける、という気概を感じさせました。 牧さんもまた、夫の創作活動を支えながら、自身も漫画家として活躍。互いに影響を与え合い、高め合う、理想的なパートナーシップを築いていたと言えるでしょう。 漫画史に燦然と輝く松本零士氏の作品。その背景には、家族の支えと、妻との深い絆がありました。
巨匠の魂は、星の海を駆け巡る
松本零士氏は、自伝『遠く時の輪の接する処』の最後を、「僕は漫画という星の海を旅しているのである」という言葉で締めくくっています。 彼の作品は、今もなお多くの人々の心に生き続け、未来へと語り継がれていくことでしょう。そして、その魂はきっと、彼が愛した星の海を、永遠に旅し続けるに違いありません。