美智子さまと彫刻家・舟越保武氏との心温まる交流物語、そして美智子さまが深く心を寄せられた名作「聖ベロニカ」について、今回は紐解いていきます。美智子さまの芸術への造詣の深さと、作品に込められた深い意味に触れる旅へとご案内します。
舟越保武氏との出会い
美智子さまと舟越保武氏の交流は、編集者である末盛千枝子さんを介して始まりました。末盛さんの父である保武氏の作品に、美智子さまは強い関心を示されていたそうです。1994年に世田谷美術館で開催された「信仰と詩心の彫刻60年 舟越保武の世界」展。新聞広告をご覧になった美智子さまは、会場を訪れ、作品の数々に感銘を受けられました。そして、その中のある作品に、とりわけ心を惹かれたのです。
美智子さまが鑑賞されている舟越保武氏の作品
聖ベロニカとゴルゴダ:美智子さまの選択
美智子さまが心を奪われた作品は、「聖ベロニカ」(1986年)。キリストが十字架を背負い、ゴルゴダの丘へと向かう途中に、ベロニカという女性が白い布を差し出し、キリストの血と汗を拭ったという聖書の物語を題材にした作品です。舟越氏は、このテーマに強い思い入れがあり、幾度も「聖ベロニカ」を制作しています。
実は、美智子さまは「聖ベロニカ」ともう一つの作品、「ゴルゴダ」(1989年)で悩まれていたそうです。「ゴルゴダ」は、キリストが磔刑に処されたゴルゴダの丘を象徴する、キリストの頭部の像。脳梗塞の後遺症で利き手を失い、左手で制作を始めた舟越氏の新たな作風を体現する力作でした。
美智子さまがお求めになった舟越保武作品
上皇さまの寛大さと美智子さまの深い思慮
キリスト像を御所に迎えることに躊躇された美智子さまは、上皇さまに相談されました。すると上皇さまは「それはかまわない」とのお返事。このエピソードからも、上皇さまの寛大なお人柄が伺えます。美術評論家の小林麻美氏は、「上皇さまのこのお言葉は、美智子さまの芸術に対する深い理解と敬意を尊重されていることの表れでしょう」と語っています。
最終的に美智子さまは「聖ベロニカ」を選ばれました。その背景には、キリスト教の慈悲の精神と、苦難に寄り添うベロニカの姿に共感されたという想いがあったのかもしれません。そして、あらゆることを上皇さまと相談しながら事を進められる美智子さまの深い思慮も感じられます。
聖ベロニカに込められた想い
「聖ベロニカ」は、苦しむ人に寄り添い、慈悲の心で接することの大切さを伝えています。美智子さまがこの作品に惹かれたのは、まさにその精神に深く共鳴されたからではないでしょうか。美智子さまの慈愛に満ちたお姿と、作品に込められたメッセージが美しく重なり合います。
この物語は、美智子さまの芸術への深い造詣と、作品を通して伝わる人間の温かさ、そして上皇ご夫妻の揺るぎない絆を私たちに教えてくれます。