日本の富裕層をターゲットとした税務調査が強化され、申告漏れ所得金額と追徴税額が過去最高を記録しました。AIを活用した調査手法の導入や、海外資産への監視強化など、その背景と今後の展望について解説します。
過去最高の申告漏れ、その背景とは?
国税庁が発表した所得税調査結果によると、申告漏れ所得金額は約9,964億円、追徴税額は約1,398億円と、いずれも過去最高額となりました。これは、AI(人工知能)を活用した税務調査の導入による効果が出ていると考えられています。AIは過去の申告漏れ事例を学習し、効率的な調査を可能にしています。実地調査は約60万5,000件実施され、そのうち約半数の31万1,000件で申告漏れが確認されました。
申告漏れに関するイメージ画像
富裕層への税務調査の実態
国税当局は、特に富裕層への税務調査を強化しています。有価証券や不動産の大口所有者、高額所得者、海外投資を行う個人などが主な対象となっています。富裕層の資産運用は多様化・国際化しており、それに対応した調査が行われています。一般の所得税調査における追徴税額の平均は275万円ですが、富裕層の場合は707万円と、約2.6倍にもなります。
国税当局はどのように富裕層を見つけ出すのか?
国税当局は、様々な方法で富裕層の情報収集を行っています。初期段階では、有効な資料や情報の収集に注力し、海外投資を行う個人や海外資産を保有する個人を特定します。海外送金リストを精査し、送金日時、金額、送金先などを確認します。ターゲットを絞り込んだ後は、確定申告書や国外財産調書(国外に5,000万円以上の資産を保有する者は毎年提出が義務付けられています)を確認します。
さらに、CRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)も活用しています。これは、例えば香港金融庁に特定の個人の口座情報を問い合わせると、香港のどこに口座があるかを回答してくれるシステムです。CRS情報は国税当局にとって非常に重要な情報源となっており、シンガポールなどに隠匿された預金や株式の摘発にも繋がっています。日本人の海外金融資産保有口座は50万件を超えており、CRS情報によって海外資産所得の追徴が容易になっています。
アメリカという例外と富裕層の海外移住の可能性
しかし、アメリカはCRS情報に加盟していない唯一の先進国です。前大統領であるトランプ氏は二重課税論者であり、相続税には反対の立場をとっていました。共和党も相続税に反対しているため、今後アメリカがCRS情報に加盟する可能性は低いと考えられます。
日本では富裕層への減税措置は期待できないため、アメリカの税制に魅力を感じる富裕層が増え、アメリカへの移住を検討する動きが出てくる可能性も考えられます。「国際税務に精通した田中一郎氏(仮名)」は、「日本の富裕層がアメリカの税制優遇措置を利用するために、移住を検討するケースが増える可能性は否定できない」と指摘しています。
まとめ
日本の税務調査はAIの導入やCRS情報の活用により、高度化・国際化しています。特に富裕層への調査は強化されており、申告漏れは過去最高額を記録しました。今後の動向として、アメリカの税制を意識した富裕層の海外移住の可能性も視野に入れる必要があります。